佐藤輝明、進化はまだ止まらない――覚醒のその先へ

去年のいまごろ、阪神ファンが抱いていた佐藤輝明のイメージをざっくりまとめるなら、「未完の大器」だったのではないかと思う。

 

そのポテンシャルの大きさを疑う者は、ほとんどいなかった。歴代の大砲候補と比べても、ここまでの成績はむしろその多くを上回っていたと言っていい。

それでも、どこか物足りなさがあった。

 

もっとできるはずなのに、まだそこまで行っていない。いや、十分にやってはいるのだが、こちらの期待する「本当の意味での凄さ」には、まだ届いていない。少なくとも、わたしはそう感じていた。

 

だが、秋口を迎えるころには、そのイメージは一変していた。端的に言えば、「ついに覚醒した大器」である。本塁打王と打点王。どちらも、ほとんどの打者にとっては手の届かない、一握りの強打者だけが到達できる領域だ。過去を振り返っても、未完成のまま打撃二冠を獲った選手など、そうはいない。

 

ところが、現場で見ている阪神のコーチたちの印象は、まるで違っていた。

 

「盗塁数はまだまだ伸びる。打率ももっと上がるでしょう。とにかく、まだ伸びる可能性があると思います。ホームラン50本?全然可能なんじゃないですか」

 

優勝がいよいよ現実味を帯びつつあった9月中旬、そう語ったのは打撃コーチの小谷野栄一だった。

 

「あくまでぼくの中での印象ですよ」と前置きしたうえで、佐藤の完成度についてこう語ったのは、当時1・2軍打撃巡回コーディネーターを務めていた和田豊だった。

 

「現時点で半分ぐらいじゃないですかね。彼の持っているポテンシャルを考えると」

 

まだまだ。半分。それが、最終的に打撃二冠を獲得することになる選手に対する、現場の評価だった。

 

そして、どうやら彼らの見立ては、間違っていなかった。

 

 

 

セ・リーグ全球団との対戦が一回りした4月20日現在、佐藤の打撃成績は打率.384、本塁打5本、打点19。まだシーズン序盤とはいえ、十分すぎる数字である。なかでも注目すべきは、やはり打率の高さだろう。

 

改めて触れるまでもないが、プロ入り後の過去5シーズンで、佐藤が打率3割を超えたことは一度もない。そもそもファンも現場も、まず期待していたのは本塁打の数であり、決して高いとは言えない打率は、それほど大きな問題として扱われてこなかった面もある。

 

もちろん、本人が気にしていなかったわけではない。

 

「“沼”の期間を短くしたい」これは数年前から本人が口にしていた言葉でもある。

 

沼――つまりノーヒット。一度当たりが止まると、ずるずるとそれが続いてしまう。そこが近年の佐藤にとって、自覚のある課題のひとつだった。

 

打撃二冠を獲得した昨年ですら、沼の時期がなかったわけではない。というより、4月中旬までの佐藤は、完全に沼にはまっていた。

 

開幕戦の第1打席でホームランを放つという、これ以上ないスタートを切りながら、そこからいきなり15打席ノーヒットという“逆確変”に突入する。しかも、その間の三振は11。対戦が一回りした段階での打率は、たったの1割9分1厘だった。

 

それがどうだろう。2026年の佐藤は、“沼”と呼べそうな時期と無縁のまま、シーズン序盤を乗り切っている。

 

では、打率1割台だった昨年4月の佐藤と、今年の佐藤は、何が違うのか。個人的には、本塁打の数にヒントがあるのではないかと考えている。

 

どっぷり沼に漬かるスタートを切った昨年の佐藤だが、対戦が一回りした時点で本塁打は4本。3・4月合計では9本と、むしろかなりのペースで一発を量産していた。開幕前、ドジャースとの親善試合で、メジャー屈指の左腕スネルから東京ドームのライトスタンドへ運ぶ一打を放ったことで、本人は「マン振りしなくても入るんだなと思った」と語っていたが、実際、それまでより軽いスイングでの本塁打は増えていた。

 

ただ、それはあくまで“前年比”としての変化にすぎなかった。マン振りの回数は減ったにせよ、基本的にはすべての打席でホームランを意識していたように、わたしには見えた。

 

今年は、違う。

 

象徴的だったのは、4月10日、バンテリンドームで行われた中日戦の最終打席だ。2点ビハインドで迎えた9回表、先頭打者として打席に立った佐藤は、中日の守護神・松山がインハイに投げ込んできた153キロのストレートをコンパクトに打ち返した。低い弾道の打球は、悠々の二塁打となった。

 

打球の方向からも、スイングの形からも、このときの佐藤がまったくホームランを狙っていなかったのは明らかだった。2点差の最終回、先頭打者に求められるのは、ソロ本塁打よりもまず出塁――そう考えたとしか思えない一打だった。

 

こうした打席は、この一度だけではない。今季の佐藤を見ていると、1試合に何度か、明らかにホームランを狙っていないと感じるスイングがある。ゴルフで言うところのパンチショットというか、かつてのイチローや、最近で言えばソフトバンクの近藤がよく見せるような、振りにいくというより、面を作って迎えにいくようなスイングである。

 

この打ち方をしていれば、当然バットがボールを捉える確率は高くなる。打率も上がる。反面、本塁打は減る――20試合を終えた段階での今年の佐藤は、まずそういう打者に見える。

 

では、打率が上がった代償として、本塁打は減ってしまうのか。

 

対戦相手としては、ぜひともそうなってほしいところだろう。だが、どうやらそうもいかなさそうだ。

 

4月12日の中日戦、佐藤は高橋宏斗の152キロの直球に軽くバットを合わせ、レフトフェンス直撃の二塁打を放った。これもまた、ホームランを狙った打ち方には見えなかった。にもかかわらず、あとひと伸びでスタンドだった。反対方向に“置きにいく”ような打撃で、そこまで飛ばしてしまうのである。

 

高打率を維持しながら、なお長打も打てる。しかも、打席の中で力みが減っている。
 

そうであるなら、相手にとって厄介なのはむしろこれからだろう。

 

つまり、穴はなかなか見つからない。

 

 


それにしても、なぜ今年の佐藤はこれほど劇的に変わったのか。昨年の覚醒も見事だったが、それすら霞ませるような成長ぶりを、なぜいま見せているのか。

 

そう考えると、阪神ファンのひとりとしては、少し胸が痛む。

 

これは佐藤に限ったことではないが、WBCに出場した森下や坂本にも、どこかこれまでとは違う空気が感じられた。チームとして結果は出なかったにせよ、彼らが大谷をはじめとするメジャーリーガーたちと寝食をともにし、その姿勢や準備、野球への向き合い方から大きな刺激を受けたであろうことは、想像に難くない。

 

佐藤にとっても、それは同じだったのではないか。大谷との距離が縮まったということは、佐藤の中でメジャーという舞台が、これまでよりもずっと現実味を帯びたということでもあるはずだ。

 

昨年、打撃二冠を獲得してなお満足の気配を見せず、新たな領域に踏み込もうとしているように見えるのは、そのためではないか。以前からメジャー志向を口にしてきた佐藤の中で、いよいよNPB卒業へのカウントダウンが始まった。そう考えれば、今年のこの凄まじい成長にも、ひとつ筋が通る。

 

メジャー行きをより確かなものにするために、昨年をさらに上回るキャリアハイを。そんな思いが今年の佐藤を突き動かしているのだとしたら、阪神ファンとしては誇らしくもあり、同時に、少し苦い。
 

【文章】金子達仁
【写真】タケダユタカ

BUYNOW

ワニクラッシャーマックスジュニア 82cm

バリエーション選択

¥44,550

BFJ公認 魚雷バット 84cm

バリエーション選択

¥14,990

野球 練習着パンツ タフパン

バリエーション選択

¥2,299

野球 練習着パンツ タフパン ジュニア用

バリエーション選択

¥1,999

バッティンググローブ

バリエーション選択

¥8,800

ガチグローブ 高校野球ルール対応モデル

バリエーション選択

¥2,390

【P革加工可能】ライトレボバディー2

バリエーション選択

¥8,899

フォーラム TPU ベースボール クリート スパイク

バリエーション選択

¥17,600

RANKING ランキング