これがヨーロッパのリーグだとしたら、大変な騒ぎになっているのは間違いない。
2部からの初昇格。監督は元学校の教師。これだけでも話題性は十分なのに、ガンバ大阪、名古屋グランパス、鹿島アントラーズと続いたいわゆる“オリジナル10”との開幕3連戦を無敗で乗り切り、7節まで首位を快走したのである。町田! 町田! 町田! それこそ、レスターだったりジローナだったりが躍進したのに負けないぐらいの騒ぎにはなっていただろう。
残念ながら、いまのところのメディアにおける町田ゼルビアの扱いは、WBCの様子を伝えるヨーロッパのメディアよりはマシ、といった程度でしかないが、町田の奮闘がなければ、Jリーグの扱いはもっと小さくなっていたかもしれない。
町田躍進の影響は、東京ヴェルディとジュビロ磐田も無関係ではないように見える。
ここ数年、J1に昇格してきたチームのおよそ半分は、1年でJ2に降格している。J2とJ1ではチームの予算規模がまったく違う。J2でできていたことがJ1ではできず、開幕から深海魚のような状態で沈んでいくチームも珍しくなかった。特に、自動昇格ではなく、プレーオフで勝ち上がってきたチームにその傾向は強かった。
今年に関して言えば、清水とのプレーオフを制して久しぶりにJ1の舞台に帰って来たヴェルディの苦戦が予想されていた。チームの予算規模から考えても、自動降格の最有力候補と見られてしまうのは仕方のないところだった。
ところが、8節を終えた段階で、ヴェルディはまだ2敗しかしていない。川崎フロンターレやサガン鳥栖、コンサドーレ札幌がすでに5敗を喫し、ヴィッセル神戸や横浜Fマリノスといった優勝候補も2敗していることを考えれば、大健闘といっていい。
おそらく、開幕時点でのヴェルディの選手の中には、自分たちのスタイルや戦力がJ1で通用するものなのか、不安めいた思いを抱いていた者もいたはずである。頑張って頑張って、しかし終盤に力尽きるという展開の試合が開幕から続いたことで、不安がより膨らんでいったことは容易に想像がつく。
自分たちの実力に自信を持ちきれないチームにとって、苦境を抜け出すのは簡単なことではない。過去、多くの昇格組が、伴わない結果によって生じた疑心暗鬼の波に飲み込まれていった。
だが、ヴェルディは崩れなかった。
その最大の要因が、彼ら自身の頑張りにあったことは間違いない。ただ、ともにJ2を戦い、直接対決では紙一重の死闘を繰り広げた町田がJ1でも首位を快走したことが、間接的ではあるにせよ、ヴェルディの、あるいは同様に奮闘しているジュビロの「自分たちにもやれる」という感情をひき起こしたのでは、とわたしは見る。
もちろん、シーズンは長い。序盤戦を上手く乗り切れたとしても、疲れがたまってくる夏場に向けて、選手層が厚いとはいえない昇格組には必ずや苦しい時期がやってくる。ただ、仮にそこを乗り切れず、最終的には苦いシーズンに終わったとしても、24年シーズンの序盤、彼らがJ1を活性化させたという事実は残る。そして、その事実は来年以降にJ1の舞台にあがってくるチームにとっても力となることだろう。
それぐらい影響力があることを、町田はやっている。
彼らのサッカーを見てまず感じるのは、「先手を取ること」に対する強い執念である。昨年のJ2でもそうだったのだが、町田の場合、圧倒的に多くの試合でファースト・ショットを放っている。最初のうちは偶然かとも想っていたのだが、こうもその試合最初のシュートを打つケースが多いと、何らかの意図が介在しているとしか思えなくなってくる。
そもそも、ファースト・ショットを打つことに何の意味があるのか、と考える方がいらっしゃるかもしれない。仮に意味があったとしても、打つことが目的になってしまえば本末転倒もいいところで、相手からすれば痛くもかゆくもない。
ただ、町田のファースト・ショットには、常に殺気が込められている。相手より先にゴールを奪ってやろうとの思いが、しっかりと乗ったシュートになっている。結果、彼らは多くの試合で、前半の主導権を握ることに成功している。
サッカーをやっている人間であるならば、この競技における先制点がどれほど重要なものなのかは熟知している。おそらくはどんな競技よりも、サッカーの0-1は重い。
ご存じの通り、町田を率いる黒田剛監督は、青森山田を日本屈指の強豪に育て上げた経歴の持ち主である。過去、高校の指導者からプロの世界に転じた例がなかったわけではないが、選手が自分のいうことをオートマチックに受け入れるという環境が当たり前だったせいか、それぞれが自分を持つ大人のチームをまとめきれないケースが多かった。
実は、黒田監督が町田の監督に就任すると聞いた際、わたしが真っ先に危惧したのもその点だったのだが、黒田監督は、自分の言葉が簡単には受け入れられないだろうという前提から入っていた。つまり、初めてチームを指揮する若い監督のような心づもりがあった。
一方で、初めて町田の試合や練習をみた時、驚かされたこともあったという。
青森山田では徹底していた守備における決まり事が、黒田監督の感覚からすれば信じられないほどにルーズだったのだ。
高校サッカーの場合、特に青森山田のような強豪校の場合、負けは絶対に許されない。10連勝しようが20連勝しようが、予選の1試合を落としただけですべてが終わる。そうならないために、その可能性を極限まで減らすために、青森山田時代の黒田監督は選手たちにマークの置き方や受け渡し方などを、徹底して身につけさせた。先手を取ることに腐心しつつ、先手を取られないためのノウハウにも時間を割いた。
おそらく、町田の選手たちは半信半疑だったはずだが、準備期間の段階から、町田の失点は明らかに減った。結果が出てくれば、監督に対する信頼感も増す。黒田監督自身が「戦う前から負けること考えてちゃダメなんで、ちょっとフカし気味に言いました」というJ2制覇という目標は、いつしか現実的なものととらえられるようになっていた。
昨年、黒田監督には二度ほどじっくりとインタビューをさせていただく機会があったが、興味深かったのは、Jリーグの指揮を取るほとんどの監督と違い、ひな型とするチームが感じられないということだった。
海外のサッカーが日常的に視聴できるようになった昨今、ほとんどの監督は理想とするスタイルを海外に見出している。ざっくり言ってしまえば、バルセロナ、あるいはペップ・グアルディオラに代表されるポゼッション重視型か、ユルゲン・クロップに象徴されるハイ・プレッシングか、である。これは監督に限った話ではない。プレーする選手たちも、やってみたいサッカーを明確に自覚する時代になった。
その点、黒田監督が明らかに異質なのは、プロよりも負けが重い世界で生きてきた人間ならではのチーム作りをしている、という点である。あえて分類するならば、前線から圧力をかけてショート・カウンターを狙うクロップ的なサッカーということになるのだろうが、それは結果的にそうなっているだけで、クロップを目指したからそうなった、というわけではない。
一方で、黒田監督はポゼッションを重視するチームが陥りがちな、後方でボールをキープしているばかりでアタックに入れない、という状況をはっきりと嫌っている。相手からするとゆったりと構えていられる時間がいつもより少なくなり、そのことに対する戸惑いが、主導権を手放すことにつながっている。
ここまでのところ、町田と対戦したチームの多くは、無駄、というか遊びのない町田のペースに飲み込まれ、先手を取られてより相手の思うつぼにはまっていく、という展開が多い。昇格してきた町田を、「勝たなければいけない相手」と見なしていたことも、焦りを増大させる結果につながっていた。だが、今後はJ1屈指の強豪と対戦するのだという前提に立ち、町田のやり方を警戒することに主眼を置くチームも現れてくるだろう。
青森山田時代であれば、引き気味の相手をこじあける強烈な個の存在があったが、率直にいって、いまの町田にそこまでの選手はいない。J2でも、中堅から下位のチームと戦う際に手こずることが少なくなかった。
ということで、中盤から終盤にかけて、町田としても難しい試合は増えていくはずだと見るが、しかし、ここまで優勝候補と完全に五分の戦いを演じてきたという自信は、確実にチームに広がっているはず。
グアルディオラのサッカーと、それに対抗する形で発展したクロップのスタイルは、いまや世界のサッカー界を二分していると言っていい。そんな中、日本の高校サッカーという世界的には極めて特殊な環境の中で磨かれた黒田監督のサッカーは、今後、どのような爪痕を残していくのか。個人的には、非常に興味深い挑戦だと思ってみている。
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