鳥谷敬が子どもたちに託した“野球の未来”。99人が学んだ特別野球教室、その一日を追った。

2025年11月23日。パナソニックベースボールスタジアムに、少年たちの真剣な表情と歓声が響いた。この日行われたのは、阪神タイガースOB・鳥谷敬さんが主導する特別野球教室。スポーツデポとNPO法人Kizunaがタッグを組み、「野球をもっと好きに」「続けるきっかけをつくりたい」という思いから実現した企画だ。

 

Kizunaが掲げる“地方創生”や“人と地域をつなぐ”という理念と、スポーツデポの地域支援の姿勢が重なり、今回は選手だけでなく指導者向けのクリニックも同時開催。
 

未来の野球を支える子どもたちと大人たちが、同じ空気を共有した濃密な一日となった。

 

 

■午前の部──指導者向け講習会は、鳥谷さんのこの一言から始まった。

 

 

「今、僕が強く感じているのは、“野球を教える環境そのものの課題”です。」

 

静かに、しかし熱を帯びた口調で鳥谷さんは語り始めました。

 

「少年野球の現場では、野球未経験の指導者も珍しくありません。もちろん『経験=良い指導者』とは限りませんが、野球は体の使い方も思考も複雑だからこそ『ほんの少しの理解』でいい、そこから始めてほしい。」

 

鳥谷さんは、現場に立つ大人の『理解の深さ』が子どもの未来を左右すると語ります。また講習では『正解のフォームはひとつではない』という考え方も強調。プロでもフォームは十人十色。子どもにも、それぞれに合ったスタイルがあります。

 

「正解を押しつけるのではなく、一緒に答えを探す姿勢こそが、これからの指導者に必要です。」

 

 

 

そして話題は「時代の変化」へ。現役時代の成功体験が今の子どもたちにそのまま通じるとは限らない。技術も価値観も、日々アップデートされている。

 

「今は、指導者自身が“学び続ける姿勢”を持つ時代です。」

 

“なぜこの動きが必要なのか”を説明できる力、一人ひとりの違いに寄り添う視点。
 

情報があふれる今だからこそ、指導者に求められるのは『本質を理解する力』だと鳥谷さんは語りかけました。

 

 

■続いて実技へ──現場で活かせる学びの時間

 

 

一行は屋外へ移動し、実技指導へ。鳥谷さんのデモに合わせて身体を動かすと、『言葉で聞いた内容』が『体感』に変わっていきます。

 

実践的なメニューが続く中、参加者はフォームを見直し、ノートを取り、何度も確認を繰り返す。その姿からは、“明日からの指導を変える覚悟”が感じられました。

 

この日、参加した指導者たちは、野球の本質と向き合いながら、大きな学びを手にしたに違いない。

 

 

 


■子どもたちへ「本物の野球を」──鳥谷さんによる特別野球教室が開催!

 

 

指導者講習会に続き開催されたのは、鳥谷敬さんによる特別少年野球教室。6チーム・総勢99人の野球少年たちが集まり、グラウンドは熱気に包まれた。鳥谷さんが姿を見せると、子どもたちの目は一斉に輝きを増し、期待と緊張が入り混じる中、待望のイベントが幕を開けた。


 

■ウォーミングアップからプロの視点を体感

 

 

イベントの冒頭、鳥谷さんが率先して行ったのはウォーミングアップ。「ケガをしない体の使い方」を意識しながら、一つひとつの動作に丁寧なアドバイスが飛んだ。子どもたちは集中した表情でその言葉に耳を傾け、グラウンドの空気が一気に引き締まった。

 

 

■ベースランニング──“走る”にも理論がある

 

 

続くベースランニング指導では、コーナーを回る際の足の置き方や重心のかけ方など、細かな身体操作に鳥谷さんが直接指導。『速さよりも“曲がり方”が大事』という言葉に、実際に動きを試した子どもたちの走りが見る見る変化していった。

 

 

■守備練習で伝える「技術の理由」

 

 

守備パートでは、キャッチボールからノックまで、基礎に重点を置いた指導が行われた。ただ技術を教えるだけでなく、『なぜこの動きが必要なのか』を一人ひとりに丁寧に解説。その“考える野球”のスタイルに、真剣な眼差しで食らいつく子どもたちの姿が印象的だった。

 

 

■バッティングでは個性を尊重する指導

 

 

イベントのクライマックスはバッティング指導。「フォームは一人ひとり違っていい」という言葉に、子どもたちの表情が一気にほぐれた。鳥谷さんは軸の作り方、タイミングの取り方など、実践に役立つポイントを惜しみなく伝授。子どもたちも思い切ったスイングで応え、グラウンドに打球音が響き渡った。

 

 

■質問コーナーで広がる笑顔と学び

 

 

教室の締めくくりは、子どもたちからの質問タイム。「どうしたらホームランを打てますか?」「緊張しないためには?」など、野球少年らしい素朴な質問に、鳥谷さんは時にユーモアを交えて丁寧に回答。笑いと学びが交差する、温かな時間が流れた。

 

 

■最後に伝えた“継承のメッセージ”

 

 

講習の締めくくりに、鳥谷さんは子どもたちへこんな言葉を贈った。

 

「この中からプロ野球選手が生まれてくれたら嬉しい。そして、今度は君たちが教える側になって、野球を次の世代につないでいってください。」

 

その瞬間、子どもたちの表情が変わった。誇らしさと決意が同居するような、少し大人びた顔つき。未来を託されたことを、本人たちなりにまっすぐ受け止めたのがわかる。

 

 

 

 

■感謝の声と記念写真でフィナーレ

 

 

すべてのプログラムが終わると、99人の子どもたちが一斉に姿勢を正した。

 

「鳥谷さん、ありがとうございました!」

 

澄んだ声がグラウンドいっぱいに広がり、その瞬間、空気が少しだけ誇らしく揺れた。

 

締めくくりはチームでの記念撮影。泥のついたユニフォームも、汗の跡も、その日を全力で駆け抜けた証だ。未来への希望がぎゅっと詰まった一枚が、子どもたちの笑顔とともにシャッターに収まった。

 

 

 

この日交わされた言葉も、流した汗も、そして一人ひとりが抱いた想いも――きっと子どもたちの胸に深く刻まれ、次の世代へと受け継がれていくはずだ。

 

全プログラム終了後、アルペングループマガジンは鳥谷さんに改めて話を聞いた。
 

グラウンドの熱気がまだ残る中、今回の講習会に込めた思い、そして“指導の未来”について語ってくれた。

 

 

■鳥谷敬さんインタビュー


“やりたい”という気持ちが挑戦につながる。その自由な一歩を、奪わない社会であってほしい。

 


──今回、スポーツデポと共にイベントを開催するに至った背景と、その思いを教えてください。

 

これまでもアスリート支援や地域活動など、さまざまな形でスポーツに関わってきました。その中で、中学校の部活動問題にも直面し、『運動する子どもが減っている』という課題を改めて実感しました。

 

スポーツデポさんも、同じ課題意識を持っていたことから、私たちの想いと重なり、まずは自分が最も貢献できる“野球”を通じて取り組もうと決めたんです。

 

特に感じていたのが、野球は他のスポーツに比べて、競技経験のない方が指導にあたるケースが多いということ。それ自体が悪いわけではありませんが、子どもたちがせっかく野球をするなら、指導者の方にも『教え方』や『考え方』を共有できたらと思いました。

 

そこで私の方から「指導者向けの講習をやらせてください」と提案させていただき、今回の企画が実現しました。

 

──鳥谷さんは『子どもたちにもっとスポーツを好きになってほしい』という想いを掲げています。今の子どもたちにとって、スポーツはどんな存在だと感じていますか?

 

 

今の時代、子どもたちは“スポーツをやらなくても困らない”と感じているかもしれません。映像で疑似体験できて、興味を持たなくても日常は成り立つ。実際、運動する環境や機会はどんどん減っています。

 

でも、僕自身はスポーツから本当に多くのことを学びました。勝ち負けがあり、自分のプレーがチームの結果に直結する。その経験は、時代が変わっても揺るぎません。

 

だからこそ、“やりたい”と思っている子が自由にチャレンジできる場を守りたい。近所の公園でボール遊びができないとか、大人の都合でスポーツの場が減っているのは本当に残念です。

 

スポーツは、身体を動かす以上に、心や人間性を育ててくれるもの。もっと多くの子どもたちが、気軽に始められるような環境づくりをしていきたいと思っています。

 

──ご自身の子ども時代を振り返って、スポーツから最も学んだことは何でしょうか?

 

一番大きかったのは、『壁を乗り越える力』を得られたことですね。

 

中高生の頃は怪我が多くて、思うように野球ができない時期が長く続きました。でもそこから復帰して、再び試合に出られるようになるまでの過程が、今でも大きな財産になっています。社会に出れば、うまくいかないことだらけ。だからこそ、10代で“立ち直る力”を身につけられたことは本当に大きかった。

 

また、チームスポーツだからこそ、自分がダメな時に仲間が支えてくれたり、自分が誰かを助けたり──そんな経験も貴重でした。スポーツを通して得た学びは、今の自分の土台になっています。

 

──今はSNSなど情報があふれる時代。“自分らしさ”や“自分のスタイル”を見つけるのが難しいと言われます。特に子どもたちは他人と比べてしまいやすい環境にいる中で、鳥谷さんが伝えたいことやアドバイスはありますか?

 

 

僕がずっと意識してきたのは、『どうすれば人と違えるか』ということです。

 

野球という競争の世界で長く生きてきましたが、現役を引退してからは、同じ土俵で競争しても敵わない相手がたくさんいると感じました。だからこそ、自分にしかできないこと、他の人がやらないことに挑戦することで、競争しない場所で勝負しようと思ったんです。

 

みんながやっている場所で輝こうとすれば、当然ライバルは多くなります。でも、誰もいない場所で光れば、自分が“最初の人”になれる。その発想は、野球で培った競争感覚があったからこそ持てた考え方ですね。

 

今の子どもたちはSNSの影響で、『みんながやっていること』に合わせがちです。でも僕はSNSもやっていません。人と同じ土俵ではなく、“違う場所”で勝負する強さを大切にしてほしいと思います。

 

──たしかに、“違う視点”は今の子どもたちにも必要ですね。

 

そう思います。特に、スポーツで挫折する経験はすごく大事だと思っています。

 

中学でケガをしてスポーツを辞める子もいるかもしれない。でも、そのとき感じた悔しさや壁にぶつかった経験は、将来大きな挫折に直面したとき、必ず支えになります。

 

スポーツは、失敗も成功も、人間関係の喜びや悔しさも、全部ルールの中で体験できる場です。兄弟がいない子どもたちが増えている中で、そうした“感情の先取り”ができる機会って本当に貴重だと思うんです。

 

だから、全員がスポーツ選手になる必要はありません。でも、スポーツを通して人生に必要な感情を先に味わっておくこと──それは、どんな人生にも必ず生きてくるはずです。

 

──スポーツを頑張る子どもたちの背景には、親御さんの支えも欠かせません。親として、どのように子どもと向き合ってほしいと感じますか?

 

 

一番大事なのは、『自分が主役ではなく、あくまでサポート役である』という意識だと思います。

 

大人はどうしても、自分の経験や価値観をベースに考えてしまいがちです。でも今の子どもたちは、選択肢も情報も本当に多くて、逆に迷いやすい時代なんです。僕らの頃は「野球かサッカー」くらいしかなかったけど、今はさまざまな競技があって、進路だって多様化している。

 

だからこそ、昔の成功体験を押しつけるのではなく、「子どものやりたいことを応援する姿勢」が何より大切だと思います。

 

スポーツに対する姿勢も、親の関わり方次第で大きく変わります。親がサポート役に徹することで、子どもが自分の意志で物事に取り組めるようになる。そこが本当に大きいと思いますね。

 

 

こうして鳥谷敬さんへのインタビューを終えて、鳥谷敬さんとスポーツデポの想いが重なったイベントは終了した。

 

スポーツデポは、「スポーツをもっと身近に」というパーパスのもと、これまで多くの方がスポーツを楽しむきっかけづくりに取り組んできました。その第一歩となる“場”や“機会”をより多く提供していくことが我々の役割だと考え、今回の野球教室も、そんな想いを形にした取り組みのひとつです。鳥谷さんと触れ合い、思いきりボールを追いかけた時間が、こどもたちにとって新しい挑戦のきっかけになれば――私たちはそう願っています。

 

スポーツが生み出す笑顔や成長の瞬間を、これからも地域のみなさまとともに育んでいくために。
スポーツがもっと誰にとっても身近で、もっと自由に楽しめる未来へ。

 

スポーツデポは、その実現に向けて挑戦を続けていきます。
 

 

【写真】西木義和
【文章】池田鉄平

 

 

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