8月11日からの東京ドーム3連戦が阪神の3連勝という結果に終わった段階で、優勝への手応えを感じた阪神ファン以上に、巨人ファンのほうが今後の厳しさを感じたのではないか、とわたしは思う。
阪神ファンが優勝を確信できなかった理由はよくわかる。3連戦を終えた時点でも、まだ3ゲーム差。しかも2リーグ制となった1950年以降、阪神が巨人を2位に従えて優勝したことはただの一度もない。年配のファンであれば、最大13ゲーム差をひっくり返された08年の悪夢もある。あの年の阪神は2度もマジックを点灯させながら、最後は巨人に逆転された。
確信など、できるはずがない。
だが、巨人ファンが「もうダメだ」と絶望した気持ちもよくわかる。
この3連戦で、巨人打線は阪神の投手陣から計4点しか奪えなかった。一方、森下翔太、佐藤輝明の2人には合わせて7本ものホームランをたたき込まれた。守りの面においても攻撃の面においても、阪神と巨人の力の差は歴然としているように思えたに違いない。
ところが、その後も巨人は食らいついている。
8月22日終了時点で、阪神は62勝47敗1分、巨人は60勝50敗2分。ゲーム差は2.5。あれだけの3連戦を見せつけられながら、巨人はまだ完全には振り切られていない。ただ、8月31日の時点で先週末の天王山を阪神が3連勝したことでまた差が開くこととなった。
それでも両チームの個人成績を比べてみれば、競り合っていることのほうが不思議に思えてくる。
首位打者は?サトテル。
打点トップは?サトテル。
本塁打は?森下とサトテルが30本で並んでトップ。
防御率トップは村上頌樹。そして最多勝は12勝の髙橋遥人である。阪神戦だけで9本塁打を放っている“虎キラー”のダルベックを除けば、巨人ファンが明るい展望を抱くのは簡単なことではないだろう。

わたし自身、まだ優勝を確信するには至っていない。いないのだが、それでも今年は阪神史上初となるリーグ連覇を達成してくれるはず、との思いに揺らぎはない。
08年の悪夢を忘れたわけではないが、あのときは北京五輪があった。阪神からは藤川球児、矢野輝弘、新井貴浩という主力3人が日本代表としてチームを離れた。巨人からも上原浩治、阿部慎之助が抜けたが、阪神にとっても大きな戦力ダウンだったことは間違いない。
今年は違う。
しかも、シーズン前半には不安定さを感じさせたリリーフ陣にも、木下里都、工藤泰成という新しい力が台頭してきた。8月20日時点で木下は防御率1.91、工藤は1.08。シーズン終盤へ向けて、むしろ戦力は厚みを増している。
なので、大丈夫。
きっと、大丈夫……と自分に言い聞かせてはいるのだが、そこは阪神ファンの悲しい性、やっぱり不安はある。
特に、藤川監督が心配なのである。
もちろん、結果だけを見れば文句のつけようはない。

藤川監督は就任1年目の昨季、阪神をリーグ優勝へ導いた。そして2年目の今年も、8月22日終了時点でチームは首位にいる。このまま優勝すれば、阪神にとって球団史上初のリーグ連覇である。
にもかかわらず、阪神ファンが藤川監督へ向ける目は、決して甘くないように思える。
ネット上を見れば、采配をめぐる批判は珍しくない。好き嫌いというレベルを超えて、「監督としてどうなのか」と能力そのものを疑問視する声さえ目にする。
あの、優勝監督なんですけど。
今年も優勝すれば、球団史上初の連覇なんですけど。
もちろん、優勝したのだから全面的に称賛すべき、などと言いたいわけではない。あれほどの戦力を揃えながら巨人と競り合っているのは監督の責任だ、という意見もわからないではない。
どれほど選手時代に実績を残し、監督として結果を出していても、ひとたび勝てなくなれば厳しい批判にさらされる。それが監督という職業でもある。
だから、藤川監督への評価が厳しいこと自体は、ある程度仕方がないのかもしれない。
わたしがそれ以上に気になるのは、試合後のインタビューや取材対応で見る藤川監督の言葉や表情が、以前よりずいぶんと硬くなっているように感じられること、である。
監督とて人間だ。
毎日毎日、似たような質問をされる。場合によっては「欲しい答えが最初から決まっているのでは」と感じる質問をぶつけられることもあるだろう。
巨大な責任と覚悟を背負っている人間からすれば、無責任に聞こえる質問や、不勉強だと感じる取材者に苛立つことだってある。
気持ちはわかる。
想像するしかないが、わかる気はする。
ただ、ときに木で鼻をくくったような、あるいは「これ以上は話しません」と線を引くような受け答えに見えることがある。勝った試合の後なのに、妙な緊張感をはらんだやり取りが画面越しにも伝わってくる。
それが藤川監督に、あるいは阪神タイガースにとって何かプラスになっているのかと問われれば、少なくともわたしにはそうは思えない。
よく知る、というほどではない。
ただ、わたしも過去に何回か藤川監督にはインタビューをしたことがある。
そのたびに、惚れた。
阪神のスターだから、ではない。
その人柄に惚れた。
独特な着眼点を持ち、それを言葉にする能力も高い。野球の話から人生の話まで、こちらが思いもしなかった角度から答えが返ってくる。時間が許すのであれば一晩中でも話を聞いていたい。そう思わせるほど、魅力的なキャラクターだった。
その藤川球児が、監督になると、こちらが知っていた藤川球児とは違う表情を見せる。それほどまでに、「阪神タイガースの監督」という仕事には、とんでもない重圧があるということなのだろう。
しかも今年、チームは球団史上初の連覇を目指している。
勝って当然と思われ、負ければ采配を問われる。勝った翌日にも次の試合が来る。そんな日々を送っていれば、いつでも誰にでも愛想よく、自分の胸の内をさらけ出せるはずもない。
だからこそ、余計に思う。
監督という仕事に、藤川球児まで奪われてほしくない。かつて取材者として向き合った藤川球児は、人を惹きつける言葉を持った男だった。
今年、もし球団史上初の連覇を成し遂げたとしたら。そのとき、監督として背負ってきたものを降ろした藤川球児から、またあの人らしい言葉が聞けたなら──。
阪神ファンとして、それ以上にうれしいことはない。
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【文章】金子達仁
【写真】大谷翔