隣の芝は青い、という。
どこよりも青いのか。ウチの芝より、である。
セ・リーグの中では、どこよりも青い芝生と見なされている阪神ファンではあるが、自分たちの芝生が日本一青いと信じている方は、むしろ少数派ではないだろうか。
少なくともわたしには、ホークスの芝生に比べれば見劣りするように思える。それも、相当に見劣りしているように思える。
彼らにとって、必ずしも順風満帆なシーズンでなかったことぐらいは知っている。
この原稿を書いている8月20日終了時点で、ホークスは68勝40敗2分。2位・西武に7ゲーム差をつけて首位を走り、優勝マジックは「25」。8月5日に「37」で点灯したマジックを、着実に減らしている。
とはいえ、無敵だったわけではない。
オリックスには7勝8敗と負け越し、西武とは10勝10敗の五分。一方、開幕前からホークスへの対抗意識を隠さなかった日本ハムに対しては、8月20日まで20試合を戦って15勝4敗1分。徹底的に叩いてきた。
結果だけを見れば、圧倒的王者の風格を感じざるを得ない。
ただ、普段セ・リーグ――というか阪神ばかりに執着している人間が、個々のスタッツに目をやると、今年のホークスには少し意外な側面も見えてくる。
なぜ今年の阪神は強いのか。
わかりやすい。
個々が傑出した成績を残しているから、である。
8月20日終了時点で、打率1位は佐藤輝明、2位は森下翔太。本塁打は2人が29本でトップに並び、打点でも佐藤がトップ。投げる方でも、防御率は村上頌樹が1位、髙橋遥人が2位。勝ち星では髙橋が12勝でトップを走っている。
サトテルも、森下も、髙橋も、圧倒的なキャリアハイといっていい成績を叩き出している。
ところが、ホークスは少し違う。
もちろん近藤健介は相変わらず凄い。打率.309で首位打者争いをしながら89打点。栗原陵矢に至っては33本塁打、90打点と、すでに過去の自分を大きく上回るペースで打ちまくっている。
それでも、かつてのホークスとは強さの質が違うように思える。
00年代には三冠王や沢村賞投手がいて、圧倒的な「個」がチームを引っ張る時代もあった。
今年は、もちろんスターもいる。
だが、誰か一人、二人の超人的な力で他球団を粉砕しているというより、あらゆるポジションで高い水準を保ち、誰かが抜けても別の誰かが出てくる。
そんな強さに見える。
投手陣を見れば、それがさらにわかりやすい。

高卒3年目の前田悠伍は10勝0敗。規定投球回には達していないものの、シーズン無敗のまま勝ち星を積み重ねている。
大卒4年目の松本晴も、昨季までの3年間で積み上げた勝利数が通算8勝だったのに、今年だけですでに8勝を挙げている。大津亮介も9勝、防御率2.72と先発陣を支える。
全盛期、円熟期に入った主力がチームを牽引しているのが今年の阪神だとすれば、これまで絶対的な主力とは言えなかった選手たちまで一気に伸びてきたのが、今年のホークスなのである。
となれば、少し恐ろしい想像もしてしまう。
来年、ホークスは今年以上に強くなっているのではないか。
前田や松本らはまだ伸びる可能性を十分に残している。主力と若手がうまく混ざり合いながら勝っている現状を見れば、いわゆる「黄金時代の幕開け」という言葉さえ頭をよぎる。
V9を達成した巨人にとっての1965年――9連覇が始まった最初のシーズンである。
つまり、後から振り返れば「あそこが長い黄金時代の始まりだった」と言われるようなシーズンを、いまのホークスは迎えているのではないか。
……などと書けば、他球団のファンとしてはたまったものではない。
逆に言えば、ライバルにとっては、戦力がさらに完成してしまう前の今年こそ、ホークスを崩す絶好のタイミングなのかもしれない。
7ゲーム差。
第三者から見れば十分に大きい。
ただ、残り30試合あまりとなるシーズンで、追われる側にとって何が起こるかわからない数字でもある。
しかも、ホークスはいま新陳代謝の真っ只中にいる。怖いもの知らずで結果を残してきた若い力が、優勝が現実味を帯びてくる9月にも、それまでとまったく同じように力を発揮できるとは限らない。
だから、ホークスの強さと優位性を十分に認めつつも、最後まですんなりと終わるとは限らない、というのが現時点におけるわたしの予想である。
その意味で気になるのは、現在ホークスが負け越しているオリックスだ。
8月20日終了時点では4位で、首位ホークスから15ゲーム離されている。優勝争いからは大きく後退してしまったが、ホークスとの直接対決では7勝8敗。そして、両軍の直接対決はまだ多く残されている。
個人成績を見ても、エスピノーザが11勝で最多勝争いのトップに並び、九里亜蓮も8勝。決して力のないチームではない。むしろ、優勝争いの重圧からある程度解放されたチームが、首位を走る相手に向かってくる怖さもある。
日本ハムも侮れない。
今季の直接対決ではホークスに大きく負け越している。しかし昨年のクライマックスシリーズ・ファイナルステージでは、第6戦までもつれた末、ホークスが2-1で辛くも日本シリーズ進出を決めた。短期決戦になれば、レギュラーシーズンの対戦成績がそのまま力関係になるとは限らない。
そして西武。
こちらは、とにかく投手陣が強い。

8月20日終了時点で防御率トップは髙橋光成、3位に隅田知一郎、5位に武内夏暉。規定投球回に達していない平良海馬に至っては、防御率1.55、被打率.188という数字を残している。
短期決戦でこんな投手陣を相手にするのは、ホークスといえども嫌なはずである。
一方、西武には気になる歴史もある。
クライマックスシリーズが始まったのは2007年。西武がそこを勝ち抜いて日本シリーズへ進んだのは、2008年が最後である。2018年、19年には2年連続でリーグ優勝を果たしながら、いずれもファイナルステージでソフトバンクに敗れた。
ただし、その歴史まで含めて考えても、数字の上ではやはりホークスが有利である。
2007年のCS導入以降、パ・リーグではレギュラーシーズン1位のチームが19回中16回、日本シリーズへ進出している。割合にすれば84.2%。
では、今年もその数字通りになるのか。
もちろん、それも興味深い。
ただ、わたしが今年のホークスを見ていて、それ以上に気になっているのは「この先」である。
前田悠伍や松本晴をはじめ、これまでチームの大黒柱ではなかった選手たちが次々と結果を出している。
今年の優勝が、単なる「連覇」として記録されるのか。
それとも何年か後に振り返ったとき、
「あの年から、新しいホークスの黄金時代が始まった」
と言われるシーズンになるのか。
阪神ファンとしては、これ以上、隣の芝が青くなるのは勘弁してもらいたいところなのだが。
※各種成績は原稿執筆時(2026年8月20日)の成績
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【文章】金子達仁
【写真】タケダユタカ