2026年8月13日、東京・新宿のAlpen TOKYO 1階イベントスペースで、「RUI “THE ONE”TALK SHOW」が開催された。

登壇したのは、NBAで7シーズンにわたってプレーし、2026-27シーズンからロサンゼルス・クリッパーズでプレーする八村塁選手だ。
「The One」は、14~18歳の選手を対象とした世界規模の1on1トーナメント。北米、欧州、アジアの20都市以上で予選が行われ、勝ち上がった選手が8月29日に中国・上海で開催されるグローバルファイナルへ進出する。

イベントでは、Jordanブランドが主催し、八村選手もサポートする同大会をテーマにトークを展開。チームスポーツにおける個人技の意味から、NBAで効率よく得点するための準備、日本から世界を目指す若い選手に必要な能力まで、自身の経験を交えながら語った。
八村選手の言葉から見えてきたのは、華やかなプレーの裏側にある、実戦を想定した緻密な準備だった。
■チームのために磨いた3ポイントが、自分の武器になった

大きな拍手に迎えられて登壇した八村選手は、8月に帰国してから、「BLACK SAMURAI」のキャンプやJordanブランドのイベントが続き、忙しい日々を過ごしていると近況を報告した。
初めて大阪を訪れたことにも触れ、「すごくグローバルで国際的な街。海外にいるような感覚もあり、僕は結構好きでした」と笑顔を見せた。
和やかな話題から一転、最初のテーマは、チームスポーツにおける「個」の重要性だ。
「バスケットボールは5人で戦うチームスポーツですが、そのなかでも、一人ひとりの技術が重要です。NBAを見ても分かるように、1対1の能力や個人技がなければ、なかなか存在感を示せません」
試合終盤など、どうしても得点が欲しい場面では、個人の力で状況を打開しなければならない。その一方で、八村選手が心がけているのは、「チームのためになる個人技」を磨くことだという。
例に挙げたのが、ロサンゼルス・レイカーズで磨いた3ポイントシュートだった。

「レイカーズへ加入した当初、僕はあまり3ポイントシュートが得意な選手ではありませんでした。一方で、チームには3ポイントシュートが必要だった。そこで、チームに貢献するために練習へ力を入れました」
チームの課題を、自分が伸ばすべき技術へ置き換える。そうして身につけた武器は、結果的に自身のプレーの選択肢を広げ、キャリアにもプラスになった。

「チームのために磨いた技術でも、最終的には自分のためになります。NBAには30チームがあり、いろいろなチームのスカウトやコーチが見ています。所属するチームだけでなく、周囲からも見られていることを意識しなければいけません」
■練習でも「なぜ、そのプレーをするのか」を考える
「The One」に参加する選手と練習した際、八村選手が伝えたのは、すべてのプレーに「意図」を持つことだった。
「何のためにレッグスルーをするのか。何のためにスピンムーブやユーロステップを使うのか。なぜ、その場面でミドルレンジを打つのか。その意図を理解していなければ、試合のどの場面で使えばいいのかも分からないと思います」
技をきれいに再現するだけでは、実戦で使える技術にはならない。
相手が足の速い選手なのか、腕の長い選手なのか、自分より身長の低い選手なのか。具体的なディフェンダーを想像し、どのような状況で使うのかまで考えて練習する必要があるという。
その考えは、八村選手自身の日々の練習にも表れている。
シュート練習では、コーチにディフェンスのチェックへ入ってもらう。さらに、あえて捕りにくいパスを要求することもある。

「試合では、毎回完璧な位置にボールが来るわけではありません。転がっているような低いボールを捕って、そのままシュートを打つ練習もします。そうした状況を取り入れておけば、試合で悪いパスが来ても、慌てずに打てると思います」
NBAでは練習時間も限られている。その短い時間でどれだけ成長できるかを考え、試合で起こり得る“不完全な状況”まで練習に組み込んでいるのだ。
■「八村塁は、効率のいい選手」
自身を一言で表すと、どのような選手なのか。
そう問われた八村選手は、「効率のいい、エフィシエントな選手」と答えた。
NBAでは、スーパースターと同じコートに立てば、自分がボールを持つ時間やシュートを打つ本数は限られる。その少ない機会で、いかに確率よく得点するかが重要になる。

「僕が1試合で打てるシュートは、10本ほどです。そのなかで自分の平均得点を残すためには、6本、7本と決めなければいけない。限られたチャンスを生かすことを考えるなかで、自然と効率のいいプレーが身についていったのだと思います」
レイカーズでは全米中継される試合も多く、常に大きな注目を浴びた。2万人近い観客の前でプレーする重圧に、どのように向き合ってきたのか。八村選手の答えは明快だった。
「それは、やはり経験だと思います。毎日のように大勢の前でプレーしていれば、少しずつ慣れていく。実際に経験しなければ分からないことなので、練習だけで身につけるのは難しいですね」
プレッシャーを消すのではなく、経験を重ねることで、それを日常に変えていく。そのためにも、若い時期から大きな舞台に立つことが重要になる。
■日本をイメージした白と赤の新作シューズ

トーク後半では、八村選手が当日着用した新作シューズ(トライアングル)も紹介された。
オフホワイトを基調に、赤を取り入れたカラーリングが特徴だ。デザインには、日本代表への思いも込められているという。

「Jordanブランドの米国のデザイナーに、日本の要素を融合させてほしいとお願いしました。日本代表でも履けるようなカラーにしてもらっています」
自身のルーツを表現した一足を紹介した後、話題は日本のバスケットボール界が「次のレベル」へ進むために必要なことへ移った。
■「英語力は、ドリブルやシュートと同じ」
八村選手は、日本と米国のトップレベルの高校生を比べても、その時点では技術に大きな差がない場合もあると語る。
問題は、その後だ。

「米国の大学へ進んでも、英語で苦労して1年を費やしてしまうことがあります。その間にも、次の世代の選手がどんどん出てくる。NBAには若い選手が次々と入ってくるので、1年の遅れが大きな差になります」
海外へ行くことを決めてから英語を勉強するのでは遅い。進学先や生活環境も含め、早い段階から世界へ進むための道筋を組み立てておく必要があるという。
なかでも八村選手が強調したのが、コミュニケーション能力だ。
「バスケットボールは展開が速く、プレーが止まる時間もほとんどありません。試合中に通訳を介しながらできるスポーツではないんです」
そして、若い選手たちに向けて、こう続けた。
「海外でプレーするうえで、英語力はバスケットボールのスキルの一つだと思っています。ドリブルやシュートと同じぐらい重要です」
八村選手にとって、英語は競技外の教養ではなく、世界で戦うために欠かせないバスケットボール技術なのだ。
■世界に近い環境を、日本の選手たちへ

八村選手は、自身の経験を次世代へ還元するため、「BLACK SAMURAI」の活動にも力を注いでいる。
2026年の「BLACK SAMURAI SUMMIT」では、トップレベルの高校生を集め、NBAや米国大学のコーチを招いた。選手たちは短期間でチームをつくり、IGアリーナという大舞台で対戦した。
「大きな舞台に立つと、普段のプレーができなくなったり、怖がってしまったりする選手もいます。一方で、そういう舞台だからこそ、自分の力を発揮し、さらに伸びていく選手もいる」
世界基準の指導と、大観衆を意識した舞台を日本につくる。八村選手がその環境を用意するのは、技術だけでなく、緊張や重圧まで含めて経験してほしいからだ。

今後は、日本だけでなく、アジアの選手たちも活動へ招きたいと構想を明かした。
「日本からNBA選手を送り出すためには、まずアジアのなかで勝てるようにならなければいけない。アジアにもレベルの高い選手がたくさんいるので、一緒に競い合える環境をつくれたらいいですね」
競争を避けるのではなく、より強い相手がいる環境へ自ら飛び込む。それが、日本の選手とバスケットボール界全体を引き上げると考えている。
■クリッパーズでは「頼られる選手になりたい」
新天地となるクリッパーズでは、これまでとは異なる役割を見据えている。

「若い選手が多く、今までにないチーム構成です。自分に求められる役割も変わると思います。もっと頼られる選手になりたいですね」
プレー面で取り組んでいるのが、ボールハンドリングと、自ら得点機会をつくり出す力だ。
これまではチームメートにチャンスをつくってもらい、効率よくシュートを決める場面も多かった。これからは自分でボールを運び、プレーをクリエートする能力を高めたいという。
「これまで以上に、自分でプレーをつくり出せるようになりたい。そのための練習にも、すでに取り組んでいます」
コーチ陣とも話しながら、新シーズンに担う役割を探っていく考えだ。


終盤には、八村塁選手が自身のビジュアルを使用したポスターにサイン。完成したポスターが会場で披露された。
■「河村選手にも、ゲームをコントロールすることを伝えた」

イベントの最後には、会場の子どもたちから質問が寄せられた。
ポイントガードを務める少年が、大切にすべきことを尋ねると、八村選手はラッセル・ウェストブルックやルカ・ドンチッチの名前を挙げながら答えた。

「河村勇輝選手と一緒にプレーしたときにも伝えましたが、ポイントガードには試合を支配し、コントロールする力が必要です。ただ自分で得点するのではなく、声を出してチームを動かし、パスでチームメートの良さを引き出す。周りの選手を生かし、チーム全体を良くするプレーが大切だと思います」

続いて、別の子どもが「対戦相手を怖いと思ったことはありますか」と質問した。
「対戦相手を怖いと思うことは、あまりないですね。僕は強いチームと戦うことが好きです。強い相手と戦うときほど、自分の力を発揮できると思っているからです」
怖さは、自分の頭がつくり出しているもの。少し怖いと感じたときには、「今、自分は一番楽しい状況にいる」と捉えるという。

「これまで戦ったことのない相手や、強い相手にも、自分から向かっていくことが大切だと思います」
チームのために個人技を磨き、練習では実戦の不完全さまで想定する。さらに、若い選手が世界へ進むための環境を、自ら日本につくろうとしている。

八村選手が語った「次のレベル」への道に、近道や魔法はない。目的を持って準備し、自分より強い相手や未知の環境へ向かっていく。その言葉は、会場に集まった子どもたちにも、まっすぐ届けられた。
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【写真】軍記ひろし
【取材・文章】池田鉄平