インターハイやウインターカップへの出場が簡単ではないなか、全国には力のある公立高校が数多く存在する。そんな選手たちが都道府県の垣根を越えて競い合う「SPORTS DEPO CUP 第1回全国公立高等学校バスケットボール大会」が、2026年8月18日から20日まで滋賀県で開催された。
47都道府県から各1校と、開催地枠の1校を加えた男子48校が集結。3日間にわたる戦いの末、岡山県立岡山工業高等学校(岡山工業)が秋田県立能代科学技術高等学校(能代科学技術)を90-67で破り、初代王者に輝いた。
公立高校の選手たちに、これまでになかった「全国」の舞台をつくる。大会誕生の背景と選手たちが見せた熱戦、そして大会を支えた人々の思いを追った。
■48校が滋賀に集まった「もう一つの全国大会」


大会は滋賀ダイハツアリーナをはじめ、守山市民体育館、野洲市総合体育館、栗東市民体育館の4会場で開催された。
主催したのは一般社団法人滋賀県バスケットボール協会。スポーツデポが冠スポンサーを務め、全国の公立高校でバスケットボールに取り組む選手たちに、新たな挑戦の場を提供した。
インターハイやウインターカップにつながる公式戦ではない。しかし、普段は対戦する機会の少ない全国のチームと競い、異なるスタイルに触れられることが、この大会ならではの価値だ。
滋賀県バスケットボール協会の杉澤和雄会長は、当初からこれほど大規模な大会になるとは想像していなかったという。

「最初は近畿圏と、その周辺から集まってもらえたらいいかな、というくらいに考えていました。ところが、全国の先生方が『こういう大会をどこかで開いてほしい』という思いを持っておられた。そこに今回の大会がうまく重なったのだと思います」
公立高校にも力のあるチームは多い。一方、練習環境や選手層などの違いから、私立の強豪校を破って全国大会へ進むことは簡単ではない。
「公立高校も頑張っているけれど、インターハイやウインターカップには、なかなか勝ち上がれない。そうした学校にも全国規模の舞台で戦うチャンスがあれば、というニーズがあったのでしょう。実際に開催してみて、これほど盛大な大会になったことに、私たちも驚いています」
■最高身長181センチ。岡山工業が貫いた「自分たちのバスケット」

決勝に進んだのは、岡山工業と能代科学技術。岡山工業が第1クォーターを19-15とリードし、前半を47-40で折り返した。
勝負が大きく動いたのは後半だった。
岡山工業は激しいディフェンスから試合のペースを引き上げ、相手の守備に生まれたスペースへ次々とカット。ルーズボールにも粘り強く反応し、第3クォーター終了時には67-52とリードを広げた。
最終スコアは90-67。岡山工業が初開催の大会で、初代チャンピオンの座をつかんだ。


岡山工業は、チーム最高身長が181センチ。登録選手のうち、180センチを超える選手は1人しかいない。サイズで上回る相手に対し、ペース&スペースを生かした攻撃や鋭いカッティング、ルーズボールへの執着、状況に応じた判断力で対抗した。
岡山工業の芳上卓監督は、勝因をこう振り返る。

「うちは小さいチームなので、ディフェンスでもオフェンスでも、相手より一つプラスのことをし、一つ先に動かなければいけないと常々伝えています。それを選手たちが最後まで遂行してくれました」
点差が開いても、選手たちはベンチで「まだ逆転される可能性がある」と声を掛け合っていたという。
「気を緩めず、日頃取り組んできたことを最後まで続けられた。それが勝因だと思います」
■38得点の内田桜太朗「入るまで打ち続ける」

優勝の立役者となったのが、岡山工業のキャプテン、内田桜太朗選手(3年)だ。身長172センチのガードながら、決勝では3ポイントシュートを次々と沈め、38得点を挙げた。
「第1回大会で優勝できて、本当にうれしいです。今日は自分たちのプレーを120%出せました」

自身の強みを尋ねると、内田選手は迷わず答えた。
「3ポイントシュートを何本外しても、入るまで打ち続ける。そういう“マンバメンタリティ”で打っています」
対戦相手に合わせるのではなく、自分たちが積み上げてきたバスケットを貫く。それが、今大会を通してチームが掲げてきたテーマだった。
次の目標は、ウインターカップへの出場だ。
「岡山県には出場枠が二つありますが、僕たちは1位で出なければ意味がないと思っています。県予選を1位で突破して、全国ではベスト16を目指します」
芳上監督も、「この経験を過信ではなく、自信にしたい」と話す。

公立高校では、体育館を使用できる日や練習時間にも限りがある。そのため同校では、メニュー間の移動を速くすることや、荷物や靴を整理することまで徹底している。
「バスケット以外のことに気を取られないようにして、体育館に上がったら競技だけに集中できる時間をしっかり取る。それは日頃から意識しています」
小さいからこそ速く動く。時間が限られているからこそ集中する。その積み重ねが、初代王者という結果につながった。
■「40分間ずっと楽しかった」

大会を取材した元女子プロバスケットボール選手の岡田麻央さんは、決勝を見終えると、興奮した表情でこう語った。
「めちゃくちゃレベルが高かったです。公立高校の男子が、こんなにうまいんだと感動しました」
岡田さんが注目したのは、身体能力やシュート力だけではない。

「バスケットボールIQが高いとか、センスがあるとか、『ちゃんと練習してきたんだな』と努力が見えるプレーがたくさんありました。個人だけではなく、チーム全員がうまい。40分間ずっと楽しかったです」
全国の異なるスタイルと対戦することは、高校生にとって大きな成長の機会になるという。
「バスケットボールは経験のスポーツでもあります。頭で理解していても、実際にやってみなければ分からないことがある。これまで経験したことのない相手と戦うことは、勝っても負けても、選手の成長につながります」
さらに岡田さんは、対戦相手を単なる「敵」ではなく、互いに試合をつくる仲間として捉えてほしいと話した。

「全国には、自分たちと同じようにバスケットボールへ青春をささげている人たちがいる。お互いの努力をリスペクトし、刺激を受けて、またそれぞれの場所で頑張る。勝敗だけではなく、そうした経験も持ち帰ってほしいです」
■商品だけでなく、競技を続けられる環境を支える


冠スポンサーを務めたスポーツデポは、協賛金に加え、大会記念Tシャツやタオルの制作などを通じて運営と選手を支えた。
株式会社アルペンの谷内正人さんは、協賛の理由について次のように説明する。

「商品を提供するだけでは、スポーツは成り立ちません。競技をする場所があり、指導してくれる人や一緒に戦う仲間がいて、『挑戦してみたい』と思える機会があって、初めてスポーツを続けていくことができます」
スポーツ用品を販売するだけではなく、競技を取り巻く環境も支える。公立高校の選手に新たな舞台をつくるという大会の理念が、アルペンの考え方と重なった。
「この大会を一度限りの協賛で終わらせず、大会が成長していくなかで、どのような支援ができるのかを継続して考えていきたいと思います」
岡田さんも、「子どもや学生が成長できる機会を大人がつくることは、その後の社会への貢献にもつながる」と、企業が大会を支える意義を語った。
■続くことで、目指される大会になる


初開催を終え、すでに次の課題も見えている。
運営や審判を担う関係者の負担をどう減らすのか。協賛企業や応援する人をどう増やすのか。そして将来的には、男子だけでなく女子にも同じような舞台をつくれるか。
杉澤会長は、継続するためには大会を支える輪をさらに広げる必要があると語る。

「公立高校でも、頑張ればこういう舞台に立てる。そう思ってもらえる大会にしたい。男子だけではなく、いずれは女子にも機会を広げたいですし、応援してくださる企業や地域も増やしていかなければなりません」
3日間の大会を終え、参加した48校はそれぞれの地域へと戻っていった。全国で得た手応えも、突きつけられた課題も、次の公式戦へ向かうための材料になる。
岡田さんは、大会の未来にこんな期待を寄せた。

「続くからこそ、大会の意味はどんどん大きくなると思います。いつか高校生にとって、インターハイやウインターカップと同じように、『ここに出たい』と目指される大会になってほしいですね」
⇒バスケットボール用品はこちら
【写真】斎藤友也
【取材・文章】池田鉄平