ナイキのランニングシューズといえばペガサスだ。日頃から慣れ親しんでいるランナーも多いだろう。ペガサスは1983年の登場以来、各時代の影響を受けながら、変わらぬ性能で走る人々を支えてきた。ロードランニングはもちろん、トレイルやタウンユースでも使え、近年ますますユーザーの裾野を広げている。ナイキジャパンの太田さん、Nike Running CoachのKANSUKEさんとペガサスの歴史を振り返りながら、改めてその魅力を深堀してみよう。
■ペガサス誕生の背景と誰でも履けるシンプルさ

●太田さん
1983年アメリカではランニングブームが起きていました。当時もマライヤのようなトップ選手向けシューズはありましたが、市民ランナーが履けるものはありませんでした。そんな中、誰でも履けるシューズとして初代ペガサスが発売されます。1984年、ロサンジェルス五輪、初の女子マラソンで優勝したジョーン・ベノイト選手がペガサスを履いていたのは有名です。彼女は40年経ったいまでも、ペガサスを愛用しています。ナイキの創業者フィル・ナイトもスーツにはブラックのペガサスを合わせますし、ナイキ執行会長であるマーク・パーカーは初代ペガサスの開発に関わっています。長くナイキにいる人ほどペガサスを愛しているイメージがありますね。誰でも履けるシューズというコンセプトでつくられているので、性能も尖らせておらず、そのシンプルさが汎用性につながっているのだと思います。
●KANSUKEさん
僕も何を履くか迷ったときはペガサスを選びます。理由は、どんなランにも対応できるから。4:00/㎞を切るペースが走れる一方、ゆっくりのジョグでは安定感があり、足を守ってくれます。
■レーシングシューズやアスリートの声を反映したペガサスの変遷

●KANSUKEさん
歴代のペガサスは、そのときのナイキシューズの時流に乗っている印象があります。ペガサス 34は、ヴェイパーフライ 4%が出たタイミングで登場しましたが、カラーはレーシングを意識しています。大迫傑選手がプロモーションに出ていた記憶のあるカラーです。

ナイキジャパンでEKINチームの太田さん
●太田さん
ペガサス 34以前はレーシングと訴求の仕方が完全に別物でした。けれど34以降連動させたことで再びペガサスが脚光を浴びます。それまでジョグやデイリーで使うシューズはルナ系が主流でした。

Nike Running CoachのKANSUKEさん
●KANSUKEさん
ペガサス 35では、モハメド・ファラー選手の「アキレス腱が当たる」という声を反映し、踵~アキレス腱に触れる部分は後ろに反るような尖がった形になっています。いまもその名残がありますが、当時はもっと露骨で、面白いと思いました。また、それまで前足部と後足部にわかれていたAirが35でフルレングスになっています(※現行のペガサス41はAirが前足部と後足部でわかれています。)。
●太田さん
当時ファラーモデルがありましたが、ペガサス 35は共通して踵が反った形状をしています。トップ選手やアスリートの声をもとにシューズをつくることはナイキの中でずっと続いています。
●KANSUKEさん
ペガサス 37あたりから、リアクト系のシューズが多く出てきました。ミッドソールの素材が、クシュロンからリアクトに変更され、履き心地が変わった。若干柔らかくなり、反発性も兼ね備えたシューズになっています。直近はリアクトX フォームに変わっているのも面白いです。毎回毎回モデルチェンジを楽しみにしています。
■選手からも支持されたペガサス ターボとDNAを引き継ぐペガサス プラス

●KANSUKEさん
ペガサスの中でも特に僕が好きなのはペガサス ターボです。選手のときに愛用していて、ターボ 2のとき廃盤になると聞いて8足まとめ買いしました。当時ヴェイパーフライ 4%等、レーシングシューズが一気に厚底になり、選手はこぞって履いていました。ただ手に入りづらかった。足数がないので現役の実業団選手も並んでヴェイパーフライ 4%を買うみたいな時代でした。そのとき選手の声を聞き、練習用にカーボンレスでZoomXを使ったシューズとして登場したのがペガサス ターボでした。これが見事にトップアスリートにハマります。箱根駅伝を目指す選手から実業団まで30㎞や40㎞の距離走を行いますが、ペガサス ターボは距離走という練習に合うシューズでした。僕も3:20‐40/㎞のペースは全てペガサス ターボで走っていて、合宿に行くときスーツケースの半分はペガサス ターボ4足が占めていました。中国のアモイマラソンに行ったときは、黒いボディに赤と金の装飾がついたペガサス ターボの旧正月モデルも手に入れた程です。ペガサス ターボで5足、ペガサス ターボ 2は8足持っていました。思い入れのあるシューズだったので、廃盤になったときは物凄く悲しかったです。

KANSUKEさん自前のペガサス ターボ ネクスト ネイチャー。リサイクル素材を使用したエコモデル。ランニング以外に私服に合わせることもあるという
●太田さん
レーシング以外で初めてZoomXを使ったのがペガサス ターボでした。廃盤後もターボを望む声が多かったので、いまはペガサス プラスという形でターボのDNAを受け継ぐモデルが出ています。ランナーの声に応え続けるのがナイキの精神ですから。プラスの裏にはターボと書かれており、アッパーにはターボらしいセンターのラインを残しています。

ペガサス プラスのアウトソールには「PEGASUS TURBO」の印字が
■ニーズや用途に応じて生まれた派生モデルたち

KANSUKEさんがBY YOUでつくったカラーのペガサス 38。シールドなのでペガサス トレイル同様、雨天に対応できる
●KANSUKEさん
ペガサスはペガサス トレイルのようなブラザーフッドが出てきやすい傾向にあります。どんな路面でも走れるし、何にでも合うので、旅行にはペガサスのトレイル系を持って行きます。急に雨が降っても対応できますし、たくさん歩いても疲れにくいので。
●太田さん
ペガサスのコンセプトは、どんな方にも履いてもらえるシューズ。あらゆる方に履いていただけるよう派生モデルのご用意があります。トレイルもそうですし、片手で着脱できるイージーオンもペガサスのモデルがあります。

P-6000。KANSUKEさんはウィメンズカラーの29cmを使用
●KANSUKEさん
スニーカーとしていま出ているP-6000はペガサス 25とペガサス 2006が合体したモデルです。スニーカーではあるけれど、ペガサスなので歩きやすい。このようにスニーカーとして復刻されるのもペガサスに長い歴史があるからだと思います。
●太田さん
機能性だけでなく、普段履きできるよう、ランニングシューズにもよりデザインが求められるようになってきました。私がナイキに入った頃、街でペガサスを履いている人なんていませんでした。走る人のスタイルが変わってきたことで、より色んな方にペガサスが受け入れられるようになってきたと思います。
■探したくなる!遊び心溢れるデザイン

●KANSUKEさん
直近のモデルでは、細かい部分にデザインが施されるようになっています。例えば、ペガサス 40はニコちゃんマークが描かれています。これにより前向きな気持ちになれると言った市民ランナーの方もいました。シューレースを通す穴のところにペガサスの羽が描かれていることもあります。羽のロゴはペガサス プラスにもペガサス プレミアムにもあり、これによって全てペガサスファミリーなのだということがわかります。

ペガサス 41ではシューホールの横にウィングロゴが

ペガサス プラスはソールの踵部分に羽のロゴ

写真、指の上を注目。ペガサス プレミアムはここにオレンジで小さく羽がデザインされている
●太田さん
ペガサス 40から派生モデルが出てくるタイミングで「これも、あなたが好きなペガサスの履き心地ですよ」という想いでウィングロゴが使われています。
■最新ナインボックスと今後も続くペガサスの系譜
●太田さん
ペガサスの本流で一番新しいのがペガサス 41。ここに派生のペガサスプラス、ペガサス プレミアムを加えた3足が、現在ナインボックスと呼ばれるシリーズのペガサスラインナップです。今回プラス、プレミアムが加わったことによって、もともと誰にでも履けるペガサスがより細かいニーズやハイレベルな要求に応えられるようになりました。プラスがあることでより軽さを感じる、プレミアムを通してナイキのイノベーションの最先端がわかるというように、あらゆる人にペガサスシリーズを楽しんでもらえるようになっています。
●KANSUKEさん
ペガサスはレベルを問いません。初心者もそうですし、プロのアスリートの多くも履いています。また、ペガサスを履くことで、他のシューズの良さもわかると思います。ベーシックなシューズなので、ペガサスの後にボメロを履けば、ボメロのクッション性や柔らかさがよりわかりますし、ストラクチャーを履けばストラクチャーのスタビリティ性が感じられると思います。僕はランナーの皆さんにより長くランニングを楽しんでもらいたいと思っています。継続していく上で、歴史が続いているペガサスは、これからもランナーをサポートしてくれると思います。ランニングを続ける中で、ぜひペガサスを1足持っていただき、今後出るモデルとの比較も楽しんでもらえればと思います。

ナインボックスのペガサスシリーズ最上位モデル「ペガサス プレミアム」
ペガサスは、アスリートの声やその時期の特徴を捉えたモデルチェンジを重ねつつ、「誰もが履けるシューズ」という一貫したコンセプトのもと、いまもベースの技術は変わることがない。初心者からアスリートまで安心して走り続けられる、ランナーなら押さえておきたい基本シューズだ。ナイキのレガシーともいうべきペガサスだが、その系譜は現在も脈々と受け継がれている。続くペガサス 42の登場も待ち望まれる。
【写真】軍記ひろし
【取材・文章】若林有美
【取材協力】株式会社ナイキ ジャパン