そのアイドルは、なぜ42.195kmを走るのか。
人気アイドルグループ =LOVE(イコールラブ)のメンバー瀧脇笙古さんは2023年3月5日に開催された「東京マラソン2023」でサブ4を達成した。
幼い頃に家族で参加したマラソン大会の思い出、初フルマラソンで直面した30kmの壁、そして目標達成のために見直したトレーニングや食事管理。
走ることは、いつしかステージに立つ自分を支える大切な習慣にもなっていた。
MUFGスタジアム(国立競技場)でのライブを控えた2026年5月、あらためてサブ4達成の舞台裏やファンからの応援、MUFGスタジアムでのライブへの思い、そしてこれからのランニングとの向き合い方について語ってもらった。今回は、そのインタビューの模様をお届けする。
■原点は、家族で走ったキッズマラソン
――そもそも、ランニングにハマったきっかけは何だったのでしょうか?

もともと父がフルマラソンに出場していて、小さい頃から家族で親子マラソンやキッズマラソンに参加していたんです。
そのうちに走ることが好きになって、学校の持久走でも「私、長距離に向いているかも」と思うようになりました。
――持久走は得意だったんですね。
そうですね。「1位を取れるかも」と思えるくらいでした。中学生の頃はソフトテニスもやっていたので、持久力もついていたんだと思います。後衛だったので、そこでさらに体力がついた感覚があります。
――実際に大会に出るようになったきっかけは?

最初は家族で「一緒に走ろうよ」という感じで、キッズマラソンや親子マラソンに参加していました。
自分の意思で出た大会として覚えているのは、相模原のマラソン大会です。5kmのレースで、父と兄と私の3人で走っていました。毎年恒例のように参加していたので、それが大会に出る原点に近いかもしれません。
■初フルで知った30kmの壁。「あとちょっと」が全然ちょっとじゃなかった
――最初にフルマラソンを走ったのは、いつだったのでしょうか?
フルマラソンは東京マラソンからスタートしました。2021年の大会が延期になって、実際に走ったのは2022年で、タイムは4時間19分26秒でした。
――当時はどれくらい練習していたんですか?

月間100kmを目標に走っていました。自分でトレーナーさんも探して、スケジュールを組んでもらいながら練習していました。
自分では「サブ4」を目標にしていたんですけど、そもそも自分がサブ4で走れる人なのかもわからなくて。ハーフのタイムが速かったので、「じゃあサブ4いけるよ」くらいのテンションで決めた感じでした。
でも、どこまで練習すればいいのかはわからなかったので、できるだけ練習に付き合ってもらいました。
――初めてフルマラソンを走って、どんなことを感じましたか?

スタート直後は、みんな勢いがあってペースが速くなると聞いていたので、自分の時計を信じて、周りについていかないことを意識しました。
いくら抜かされてもいいから、自分のペースを守ろうと。実際、いろいろな人に抜かされながら、ゆっくり入りました。
ただ、30kmの壁は本当にあるんだなと思いました。
30kmあたりから「あとちょっとだよ」と沿道の方々から声援をいただいたのですが、「その“ちょっと”ってどのくらいなんだろう。」と思いながら走っていて。
1年目は、30kmを超えたあたりからが本当に苦しかったです。
■サブ4のために変えた練習と食事
――初フルマラソンを走って、次の挑戦に向けて意識したことはありましたか?

最初の年はサブ4を達成できなかったので、「次こそは絶対に達成したい」という強い気持ちがありました。ファンの皆さんにも公言していたこともあり、プレッシャーというよりは、自分自身に対して「絶対に叶えなければ」という思いが強かったです。
1年目を通して練習量や内容が足りなかったことを実感したので、2年目はより計画的に、しっかりとトレーニングに取り組むようになりました。
――練習内容で、特にためになったものはありますか?
スピード練習ですね。長距離なのにスピード練習をするんだ、というのは意外でした。
あとは、当日までフルの距離を走らないことにも驚きました。自分の中では、一度42.195kmを走っておかないと不安だったんです。でも実際は、20kmや30km走、ハーフくらいの距離を組み合わせて練習していく。
自分だけでは絶対にそういう組み方はしていなかったと思うので、すごく勉強になりました。
――食事面でも変えたことはありましたか?
食べるものや栄養面も、トレーナーさんと相談してかなり意識しました。本番前1か月間は、ほとんど同じものしか食べていなかったと思います。
白米、西京焼き、サラダ、お味噌汁。お味噌汁も、自分の体に合うものがあって、そればかり飲んでいました。
「これを食べた日は調子がいい」「これはやめておこう」みたいな、少し験担ぎに近い部分もありました。そうやって、本番に向けて食べるものも少しずつ絞っていきました。
■「しょこちゃんサブ4」がトレンド入り。東京マラソンでつかんだ達成感
――実際にサブ4を達成したときは、どんな気持ちでしたか?

もう、すごい達成感がありました。公式タイムはその場ではわからなかったんですけど、自分の時計を止めたときに4時間を切っていたので、「これはいけたな」と思いました。
途中で「まだペースを上げられるかもしれない」と思う瞬間もありました。でも、そこで上げてしまって、1年前のような苦しさを味わうのは嫌だったんです。
だから、最後まで一定のペースを守りました。よく「ロボットのように走っている」と言われるんですけど、本当にその感覚でした。ゴールが見えても、ペースを崩さずに走りました。
ゴール直前には、ファンの方が「4時間切れるよ!」と教えてくださって。ゴール後に携帯を見たら、「しょこちゃんサブ4」がトレンド入りしていたんです。
そこで初めて、「やっぱりすごいことを達成できたんだな」と実感しました。
――ファンの方の応援も力になったんですね。

はい。東京マラソンには追跡機能があるので、ファンの方が私の位置を追いかけながら応援してくださっていたんです。
数kmごとにファンの方がいて、「さっき見たのに、どうやってここまで来たの?」と思うくらいでした。私より急いで移動していたんじゃないかと思うくらい(笑)。メンバーも来てくれて、本当に力になりました。
■「走らない意味がわからない」ほど追い込んだ日々
――大会前は、どのくらいランニングに集中していたのでしょうか?

とにかく目標に向かうしかなかったんです。「やるぞ」という気持ちしかなくて。むしろ、走らない意味がわからないくらいの精神状態でした。
本当に「サボる」という発想がなかったです。雨の日も家でトレーニングをしていましたし、今振り返ると、あの頃の自分は少しおかしかったなと思います(笑)。
――そこに全集中していたんですね。
そうですね。今振り返っても「あのとき、やばかったな」と思うくらい本気でした。
メンバーから「このあとご飯に行こうよ」と誘ってもらっても、「ごめん、走らなきゃいけないから」と断っていて。だからこそ大会後は、メンバーに誘われたら全部行くくらい、楽しくご飯を食べていました。
――走りながら、自分と向き合うような時間もありますか?
ありますね。でも、本当にその時によります。
スピード練習やタイムを測っているときは、タイムのことしか考えていません。逆に、ジョグのような日は、LINEの返信を考えたり、このあと何を食べようかなと思ったり、その日のスケジュールを整理したりしています。
ぼーっと走っているときもありますし、何も考えていないときもありますね。
■「変えるのが怖い」。シューズは1足を履き続ける

今回のインタビューでは、MUFGスタジアムにもほど近い、「ALPEN RUN MEIJI PARK」を初めて訪れた。
店内を見渡した第一印象を尋ねると、「可愛いなと思いました」と笑顔を見せた。スポーツ用品店には商品がずらりと並ぶイメージを持っていたというが、モニターを活用した空間演出や、ゆとりのあるディスプレイに新鮮さを感じたようだ。
――普段はどんなウェアを着て走ることが多いですか?


ポリエステル100%のような動きやすい素材で、トップスに短パン、スパッツを合わせることが多いです。
――ランニングウェアやシューズは、どう選んでいますか?

大会前は、トレーナーさんと一緒に買いに行くこともあります。体を動かしやすいものを選びたいですし、膝のこともあるので。
普段の靴はあまり試着しないんですけど、ランニングウェアやランニングシューズはちゃんと試着します。履いたときの感覚も大事にしていて、「なんとなくこっちのほうがいいな」と思うものを選ぶようにしています。
――ランニングシューズは何足くらいを使い回していますか?

基本的には1足です。1回目の大会と2回目の大会では違うシューズを履きましたが、それぞれ練習から本番まで、ずっと同じシューズで走っていました。
変えるのが怖いんです。感覚が変わってしまって、走れなくなってしまうんじゃないかと思って。
――かなり履き潰すくらいまで使うんですね。
そうですね。中にインソールを入れているんですれけど、自分の足の力のかけ方もあって、インソールに穴が空くことがあります。そうなったら、インソールを替えてもらうという感じです。
■ランニングでついた体力は、アイドル活動にも生きている
――アイドル活動と両立する中で、走ることはどんな良い影響を与えていると感じますか?

まず体力がつきます。特にアイドルのライブは、全員でずっと出ずっぱりなんです。ステージからはけても、裏では早着替えをしていたりするので、かなり体力を使います。
だから、ランニングで体力がつくのはすごくいい面だと思います。あとは、健康的にもなりますし、栄養面の学びもありました。総じて、走っていてよかったなと思います。
――6月20日、21日にはMUFGスタジアムでのライブが控えています。そこに向けて、今努力していることはありますか?
やっぱり会場が広いので、言われたのは「みんな走れ」ということでした。体力が足りなくなるから、と。
体力はもちろん、広いステージで大きく見せることも大事なので、個人的にはダンスももっと頑張りたいです。
あとは、4月に横浜スタジアムでライブをやったときに、アリーナとの違いをすごく感じました。煽り方も違いますし、音の反響の仕方も違う。横浜スタジアムで学んだことを、MUFGスタジアムで生かしていきたいとメンバー全員で話しています。

■次はタイムより、楽しく走りたい
――今後は、ランナーとしてどんな自分をイメージしていますか?

最初は「マラソン×アイドル」という形を、あまり想像してもらえていなかったんです。
だから今、こうして仕事として走ることに関わる機会をいただけているのは、すごくうれしいです。
「パイオニア」と言っていただけることも多いので、自分の好きなものをちゃんと昇華して、楽しい人生につなげていきたいなと思っています。
――サブ4の次に、タイムでの目標はありますか?

「さしこ超え」ですね。プロデューサーの指原さんにかけて、3時間45分をひとつの目標にしていました。
ただ、今は楽しく走りたい気持ちが強いです。サブ4を目指していたときは、本当に自分でもおかしいくらい追い込んでいたので。
達成感もあって、「もう走らなくていいや」と思った時期もありました。だから今は、タイムにこだわるより、(JAL)ホノルルマラソンを楽しく走ってみたいです。それは自分の人生の中でも、ひとつの目標になっています。
――海外のマラソンにも興味があるんですね。
父もオーストラリアのゴールドコーストマラソンに出場していたんです。東京マラソンを走っているときにも、海外の大会をいくつか完走するともらえるメダルを持っている方を見かけて。
走りながらその背中を見て、「羨ましいな」と思っていました。タイムを目指すのも楽しいですけど、そういう違った楽しみ方もしてみたいです。
――お父さまも、かなり走られているんですね。

国内の大会には何度も出場しています。私が初めてフルマラソンを走ったとき、もともとはサブ4が目標だったんですけど、走っている途中で「あ、もう無理だ」と思った瞬間があって。
そのときに、父のベストタイムが4時間20分だったことを思い出したんです。「じゃあ、お父さんのタイムは超えるぞ」と思って、最後のほうはそれを目標に走っていました。
結果は4時間19分26秒で、ギリギリ父を超えることができました。
――最後はお父さま超えがモチベーションになったんですね。

はい。最後はそれが一番のモチベーションでした。
【写真】軍記ひろし
【取材・文章】池田鉄平
【衣装】スタイリスト 長谷川香
【衣装協力】BROOKS、LeSportsac、TIGORA、Alpen TOKYO
【取材協力】ALPEN RUN MEIJI PARK