(上記画像:香川はボランチのポジションでチームをコントロール)
サッカー選手の才能開花やキャリアアップ、新境地開拓のきっかけは様々だ。
そのひとつに、コンバートがあげられる。ポジションを変えることで新たな才能を発揮する選手、それまで眠っていた才能を解放する選手は、国内外を問わずにいるものだ。2025シーズンのJリーグでも、それまでと違うポジションで輝きを放つ選手がいる。
●香川真司(セレッソ大阪)日本代表で長く背番号10を背負った香川は、トップ下や2列目でゴールやアシストを記録してきた。ファイナルサードの狭いスペースや守備ブロックの間でボールを受け、失うことなくラストパスやシュートにつなげる技術は、アタッカーとしてのクオリティの高さを示すものだった。しかし10代当時はボランチだった。中盤でボールをさばくゲームメーカーのようにプレーしていたのである。23年のセレッソ大阪復帰後は、ダブルボランチやインサイドハーフを任されることが多く、今シーズンはダブルボランチのひとりとして攻守に存在感を発揮している。彼の場合はコンバートというより原点回帰と言うべきかもしれないが、マイボールの局面でひとつ先を見ることができ、そこへキッチリとパスを通せる技術はさすがと言うしかない。
●知念慶(鹿島)17年に川崎フロンターレの一員となってから、ストライカーで起用されてきた。身体能力に優れる彼は、ポストプレーをこなしながら自らもゴールを脅かし、守備の局面では前線から相手のビルドアップを規制していく。ただ、2ケタ得点を記録したことは一度もなかった。転機が訪れたのは鹿島アントラーズ移籍2年目の24年。チーム事情でボランチにコンバートされると、フィジカルの強さを生かしてボール奪取能力の高さをアピール。リーグ最多のデュエル勝利数を記録したのだった。川崎Fで師事した鬼木達監督が鹿島を指揮する今シーズンは、ボランチでスタメン出場するとともに、最前線でも起用されている。どちらのポジションでも躍動感溢れるプレーを見せており、コンバートによって出場機会を増やした好例と言っていいだろう。
●宮市亮(横浜F・マリノス)育成年代から爆発的なスピードを誇るウイングとして知られ、高校卒業とともにヨーロッパ各国のクラブでプレーしてきた。32歳となった現在もスピードは健在だが、所属する横浜F・マリノスのチーム事情もあり、今シーズンは右サイドバックで起用される試合が増えている。ボールを持った局面で前方にスペースがあるため、持ち前のスピードを生かした攻撃参加は可能だが、最終ラインを構成するだけに守備の意識を強める。「ゼロに抑えたい、マッチアップした選手に負けないようにしたい」と話す。5月下旬のリーグ戦で負傷し、現在は戦線離脱しているが、復帰後のパフォーマンスが注目される。
●関根貴大(浦和)浦和レッズのアカデミーからトップチームに昇格し、攻撃的なポジションでポテンシャルを示してきた。一方で、戦術的柔軟性を持ち合わせており、ウイングバックやサイドバックで起用されることもあった。ドリブルで対面する相手を剥がす、敵陣深くにもぐりこむといった長所を発揮しながら、チームが求めるタスクを遂行できるのだ。キャプテンに指名された今シーズンは、開幕戦から7試合連続で右サイドバックのポジションに入った。登録ポジションはMFだが、FWでもDFでもチームが求めるクオリティを担保できる彼は、スタメンでも途中出場でも高い貢献度を示す。
乾はトップ下へのコンバートでキャリアをさらに充実させた
●乾貴士(清水エスパルス)ラ・リーガのエイバルや日本代表でサイドアタッカーとして結果を残してきた乾は、35歳になる直前の23年4月に、清水エスパルスの秋葉忠宏監督によってトップ下へコンバートされた。本人も「サイドをやるにはなかなか難しい年齢にもなってきているので、真ん中だとキレとかじゃないところで勝負できる部分もある」と、前向きにとらえていた。果たして、4-2-3-1のトップ下と3-4-2-1の2シャドーで、サイドではあまり見せてこなかったパスセンスを発揮していくのだ。ファイナルサードの狭いスペースを切り裂く絶妙なアシストはもちろん、何気ないボールコントロールは芸術的と言って差し支えない。ボールを持った乾を観るだけで、スタジアムへ行く価値がある。
●新井悠太(東京ヴェルディ)左サイドを主戦場とする右利きのドリブラーで、加速しながら相手の逆を突いていく。東洋大学で4年時に背番号10を着け、インカレ初優勝をもたらし、自身はMVPを獲得した。東京ヴェルディでは大学在学時の23年から特別指定選手としてプレーし、卒業後の25年に正式加入。2シャドーの一角と左ウイングバックで、2節からスタメンに名を連ねていった。縦への突破とカットインを使い分けつつ、ゴール前へのピンポイントクロスでアシストもできる。ボランチでもプレーしてきたため、守備のプレー強度も高い。6月下旬のJ1リーグでは、初めて1トップで起用された。複数のポジションに対応できる新井が、これからどのポジションで起用され、どのような成長曲線を描いていくのかは興味深い。
鈴木淳之介は、いまもっとも注目を集めるDFのひとり
●鈴木淳之介(湘南)6月のインドネシア戦で日本代表デビューを飾ったこの21歳は、湘南ベルマーレにボランチとして入団した。プロ3年目の24年にセンターバックへコンバートされると、一気に出場機会を増やしていく。ビルドアップの局面で積極的にボールに関わり、「受けてパスを出す」だけでなく自分で持ち出すことも、相手のマークを剥がしてからパスを出すこともできる。本人は「ボランチは360度からプレッシャーを受けるけど、センターバックはそうではないので」と涼しい顔で話すが、マイボールの局面ではボランチのようにプレーする。このまま日本代表に継続的に招集されていけば、早期のステップアップもありそうだ。
●マテウス・ジェズス(V・ファーレン長崎)18年にガンバ大阪でプレーした当時は、セントラルMFだった。23年にJ2のV・ファーレン長崎へ加入した当初も、ボランチやインサイドハーフでの出場が多かった。それが、24年から4-2-3-1のトップ下で起用されるようになり、4-3-3のセンターフォワードでも使われ、得点ランク3位の18ゴールを叩き出した。25年シーズンは攻撃的なポジションが定位置となり、シーズン前半戦(19節)終了時点で得点ランク2位の9ゴール。利き足の左足から繰り出すシュートはパワフルかつ高精度で、中長距離からも確実に枠をとらえる。空中戦にも強く、ヘディングでもゴールを決めている。ボランチからポジションを上げたのは正解だった。
●為田大貴(ジュビロ磐田)15年のプロ入り後に在籍した大分トリニータ、アビスパ福岡、ジェフユナイテッド千葉では、ボランチ、ウイングバック、サイドバーフなどでキャリアを積んできた。セレッソ大阪在籍時の24年シーズン終盤にサイドバックで起用されると、25年に加入したジュビロ磐田でもサイドバックで出場している。磐田のサイドバックはハーフスペースに立つことが多く、ボランチの資質もある為田はそのタスクを難なくこなしている。プレッシャーを受けているなかでもボールを受ける、さばく、相手のマークを外す、といったことを怖がらないので、チーム全体のボールの循環がスムーズになるのだ。リードした終盤は彼をサイドハーフに置き、守備力の高いSBを起用して逃げ切りをはかる、といったオプションも成立している。
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