[ 前編はこちら ] 躍動感あふれる全力のプレースタイルや、数々のタイトルを獲得した実績はもちろんのこと、それまでのプロ野球の常識を覆すようなユニークなパフォーマンスでファンを惹き付けるなど、球界のムードメーカーとしても多くの人の記憶に残り続ける森本稀哲さん。 そんな彼にとっての野球の原体験や、「甲子園」という絶対的な夢に向かって走った高校時代、そしてプロ入り後、1軍定着までの決して短くない日々など、活躍の裏にあったターニングポイントや意識の変化は、どんなものだったのか。そして、引退後に気づいたという野球の面白さについても話を聞いた。 ■プロになれるなんて思っていなかった ──プロ入りを意識するようになったのはいつごろでしたか? 甲子園にとにかく出たいというのが目標だったので、プロになれるなんて当時は考えたこともほとんどなかったです。スカウトが来ているよ、と言われたことはあっても「本当に来てるの?」くらいの感じで。夢のまた夢すぎて、自分ごととして考えたことがなかったというか。それでも、高校卒業後も野球を続けるっていうことは前提として考えていました。授業料で親に迷惑をかけたくないと思っていたので大学という選択肢はなく、一応プロ志望届を出したんですよね。僕はぜんぜん注目されていなかったので、ドラフトの当日も普通に授業を受けてました。すると、休み時間に後輩が「稀哲さん、日本ハム4位でドラフトかかりました」って。もう、「ええ!?マジ!?」って感じでした。テレビでよく見る、「おめでとうございます!!」ってカメラのフラッシュに包まれるような、あんなのはまったくなくて(笑)。学校を挙げて、とかでもなく、後輩が伝えにくるっていう……(笑)。記者会見も胴上げもなし。「俺、プロ野球選手になるの…?」って、しばらくは実感が湧きませんでした。 ■「このままじゃ終わり」と思い直して掴んだ手応え ──いざプロに入ってみて、いかがでしたか? まず、このままでは通用しないなと感じました。何年かは武者修行のようにひたすら練習して、自分のベースを上げるしかないな、と。僕は一軍のレギュラーになるまでに7年くらいかかったので、途中であきらめかけてしまったこともあって。最初はプロに入って成功したい、とがむしゃらに頑張っていたはずが、なんだかんだお給料はもらえるし、ご飯もある、洗濯もしてもらえる……という、何不自由ない環境で野球をやらせてもらえることが当たり前になって、気持ちがぼやけてしまった時期があるんです。なんとなくクビにならないから、という甘えがあったというか……人間の弱さみたいな面がものすごく出てしまった時期でした。でも、プロ6年目を終えたころの2005年シーズンが始まる前に「このままだと終わっちゃうな」と思い直してからは、レギュラーを獲るために何をしなければいけないのか、もう一度真剣に考えるようになりました。そこから大きく意識が変わっていきましたね。僕はバッティングが悪かったので、打つほうの練習にもより一層力を入れるようになりました。結果的に、2005年シーズンは規定打席には届かなかったものの、やっと手応えを掴み始めました。 ──そのときの変化が、2006年のレギュラー定着や「日本一」貢献、パ・リーグ最多得点やゴールデングラブ賞獲得などの活躍につながっていったのですね。 これだけ意識を変えて、やっと少しずつ結果が出始めたな〜、と。それと同時に、一軍に定着したからこそ今まで以上にコンスタントに結果を残さなければいけないというプレッシャーも生まれました。2006年もレギュラーになって日本一にもなれましたが、正直なところ自分のことでいっぱいいっぱいでした。それまで規定打席に届いたこともなかったし、初めてのレギュラーだったので。外野手なんていっぱい良い選手がいるし、とにかく毎日が勝負でしたね。 ──森本さんといえば「チームのムードメーカー」という印象を持つファンも多いと思います。チームの雰囲気やまとまりについては、どのように意識されていましたか? チームとして野球をすることの面白さを改めて実感できたのは、2007年でした。その年ファイターズは、チーム打率がリーグ最下位だったにもかかわらずリーグ優勝できたんです。野球って、打って投げる以外にも、チーム内での役割分担だったり、目に見えないものがうまく噛み合えば、たとえ打率が低くても勝てるんだ、ということに実体験と共に気付けました。それでチームのなかでの自分の活かし方を意識するようになったり、かといってチームのことを考えすぎて自分の個性が死んじゃうのもだめなので、きちんとバランスも考えるようになったり。2007年は、野球の新しい一面を学べた年であり、僕にとってものすごく良い経験ができた年だと思っています。 ■野球は、人間性が表れるスポーツ ──プロでトップレベルを経験したからこそ感じる、野球の面白さは何だと思いますか? これは引退してから気付けたことなのですが、野球はその人の人間性がもろに出るスポーツだということ。みんな、打席やマウンドで頑張ろうとするけれど、その前の準備段階から勝負は始まっています。もちろんプロだからこそ、結果がすべての世界ではあるのですが。そのために日ごろから自分に必要なことをやりつくしておいて、あとは思い切ってやるだけ、と臨める人のほうが、最終的に結果を残せるんじゃないかなと思うんです。つまり、過程が大切だということ。100%やりきった先の結果がどうなのかっていう照らし合わせも面白くて。たとえば、前の日にサヨナラエラーした選手が、次の日に一打席目ホームランを打ったりすれば、きっと何か気持ちの変化があったんだろうな、と感じられたりもしますよね。 ──ご自身の現役時代を振り返って、どんなところに人間性が出ていたと思いますか? 僕が現役時代に持っていた「全力であきらめず、楽しく野球をする」という目標が、プレーにも現れていたんじゃないかと思います。名球会入りできるようなすごい実績は残せていなくても、全力で走る姿や、なんとかバットに当てようという気持ちを感じ取ってくれた人が多いはず。今では僕自身が球場の上から野球を観るようになって、実際に選手たちの気持ちが伝わってくることがあるからこそ、自分も全力で走っていてよかったなと思っています。僕のファンでしたって言ってくれる人って、たぶん顔では選んでいないと思うんです(笑)。プレーを観てくれて「なんか必死に頑張ってるね」と感じてくれた人が応援してくれていたんじゃないかなと感じています。 ■何事も、過程を大切にしたい ──結果ももちろん大切だけれど、それ以上に過程が大切、ということは、野球に限らずほかのスポーツでも、仕事や勉強など、すべてのことに当てはまりますよね。 何事も、頑張ったからといって結果が出るかというと、そうではないです。でも、やれることをやりきっていたら、その答えも受け入れられると思うんです。ここまでやってできないなら仕方ない、と。それでまた次に向けて前向きな気持ちになれれば、その後の自分にも良いことが返ってくるはずだし。だからこそ野球でも、それ以外でも、もっとやれることがあるのに「向いてない」と決めつけてしまうのは、僕としてはもったいないと思います。途中で逃げることが悪い、というわけではないけれど、ちゃんとやりきったからこそ次に繋がることがあると思うんですよね。 ──森本さんの野球人生も、とにかく「やりきる」ことの積み重ねだったのですね。 現役最後の年も、まさにそうでした。僕なりに準備もめちゃくちゃして万全の状態で迎えたシーズンで、ヒットを一本も打てなかった。これはもう受け入れるしかないよな、と。スッと納得できたから引退したんです。今はいろいろと新しいことをやらせてもらっていて、相変わらず結果も出たり出なかったりするけれど、やっぱり過程は大切にし続けています。僕は、うまくいかないこともそれはそれで楽しいと感じられるんです。子どものころは、成功体験が成長を促してくれると思うんですけど、大人になってからは、失敗が大きな糧になると思っています。だからこそ、うまくいかないことも楽しんでいこうよ、と。それでいうと、野球は失敗の多いスポーツだからこそ、大人になってからも面白さを感じられるんじゃないかと思うんです。うまくいかないことを後ろ向きにとらえるのではなくて、一歩進むための糧として、前向きに。それで次の機会に成功できたら、また子どものころのように喜びを感じられる。そんなところが、野球の面白いところじゃないかなと思います。 #プロフィール 森本稀哲 1981年1月31日生まれ。帝京高校在学中、第80回全国高校野球選手権大会に出場。1999年ドラフト4位で日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)に入団。2011年横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)移籍。2014年埼玉西武ライオンズへテスト入団。ベストナイン1回(07年)、ゴールデングラブ賞3回(06・07・08年)、日本シリーズ優秀選手賞1回(06年)、オールスター優秀選手賞2回(06年第2戦、07年第2戦)、オールスター新人賞(06年)。2015年に現役を引退し、現在は野球解説者として活躍する。著書「気にしない。どんな逆境にも負けない心を強くする習慣」(ダイヤモンド社)。
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