試運転の剛腕、全開の打棒――大谷翔平の“未完成な頂点”

大谷翔平が、今年もホームランを50本台に乗せた。メジャーリーグ史上、2年連続の50本台は史上6人目の記録だという。

 

なんかもう、笑うしかない。

 

ベーブ・ルース、マーク・マグワイヤ、ケン・グリフィーJr.、サミー・ソーサ、それにアレックス・ロドリゲス。いずれも、サッカーの世界で言ったらペレ、マラドーナ、クライフ、ジダン、メッシ並の“偉人”である。そこに6人目として名を連ねただけでもとんでもないことなのに、連ねた場所が“末席”ではなく、ひょっとしたら“首席”かもしれないのだ。

 

ピッチャーとしてのベーブ・ルースは、大谷ほどの剛速球を投げるわけではなかったと聞く。マグワイヤ、ソーサあたりには、ステロイド使用の疑惑がつきまとう。使用球の反発力も、現在のものとはかなり違っていたらしい。

 

ただ、そうはいっても大谷は日本人で、メジャーリーグは基本、アメリカ人によるアメリカ人のためのスポーツだった。日本の大相撲界から、外国人横綱に対する厳しい目が完全になくなったわけではないように、いわゆる宗主国が外から来た人間をフラットに評価するのは簡単なことではない。

 

にもかかわらず、他ならぬアメリカ人の中からも、大谷翔平は史上最高の野球選手である、との声が普通に聞こえるようになってきた。

 

これがどれほどとんでもないことか──。大谷翔平が現役を退いて初めて、日本人は実感できるのではないか。

 

しかも、この“首席”は、来季以降、さらに偉大なる先達たちを引き離していきそうな気配さえある。

 

打者としてはほぼ期待通りの成績を残している今シーズンの大谷だが、もう一つの刀、ピッチャーとしてはあくまでも試運転レベルに留まった。9月21日現在で成績は1勝1敗、防御率3.29、投球回41、奪三振54となっているが、大谷以外、つまり二刀流ではない投手専任の選手がこの成績であれば、相当に物足りない数字として片づけられてしまうだろう。あえて酷な言い方をすると、投手としての今年の大谷は、ほとんどチームに貢献できていない。

 

だが、ロバーツ監督はもちろんのこと、ドジャースのファン、取り巻くメディアの人間までもが、これはあくまでも試運転であるという認識を持っている。今後は、確実にあらゆる項目で上積みがなされるだろうという共通した確信がある。

 

そこが、凄い。

 

プロ・スポーツのファンとは残酷なもので、どれほど素晴らしい成績を残し、チームに数多の栄光をもたらした選手であっても、結果が残せなくなればすぐに批判の声にさらされる。使う側は、あっさりと切り捨てる。ヨハン・クライフの監督としての最終年、カンプ・ノウは更迭を要求する白いハンカチで埋めつくされていたし、ランディ・バースが長男の治療のために帰国を希望した際は、在阪のメディアだけでなく、ファンの中からも「わがままだ」という声が沸き上がった。

 

ひょっとすると、あと何年か、あるいは十数年が経過すれば、大谷にも同じ運命が巡ってくるのかもしれない。ただ、それはいまではない。二刀流の刀が1本欠けた状態であっても、そのことを批判する声は、わたしの知る限り、ほぼほぼ上がっていない。

 

大谷のこれまでの実績が、そして試運転でありながら唸りをあげるファストボールが、そうした声を封じている。

 

日本人のみならず、多くのアメリカ人までもが、来年の大谷はもっとやれるはずだ、と信じきっている。これはもう、単なるスター、スーパースターを遥かに超え、伝説的な存在でなければ到達し得ない境地である。

 

そして、たぶん、彼はやるのだろう。

 

1イニング限定で始まった今年の試運転は、シーズン後半に入り、ついに責任回数を投げきるところまで状態をあげてきた。直近のフィリーズ戦では、5イニングをノーヒットに封じ込めた。来シーズンと言わず、ポストシーズンではよりマックスに近い投手・大谷翔平が見られるかもしれない。

 

目にされた方がいらっしゃるかもしれないが、スポーツ雑誌『Number』がスラッガー特集号を出し、大谷翔平と佐藤輝明、日米の大砲を大々的に取り上げるという企画をやった。ここ数年、継続してサトテルのインタビューをやらせていただいてきた流れで、わたしは彼の今後について、という企画を担当することになった。

 

印象に残ったのは、話を聞かせていただいたすべての方が、「サトテルは過去の誰にも似ていない」と口にしたこと、入団当時からの彼を知る和田豊さんが、現時点での完成度を「半分ぐらいかな」と言ったことだった。

 

原稿をまとめながら思ったのは「これって、大谷翔平にもそっくりそのまま当てはまるんじゃないのか」ということだった。

 

サトテルがバースや掛布さんに似ていないように、大谷翔平は、一時期はよく比較の対象とされたベーブ・ルースとはまるで似ていない。50盗塁を記録したことのある彼の俊敏性は、パワーと引き換えにスピードを失った選手とは違うし、両方を兼ね備えた選手にしても、求められる仕事は打撃のみ、だった。

 

そして、打撃面、攻撃面では超一流の記録を残してきた大谷も、こと投手業に関しては、記憶に残る仕事、しかできていない。

 

ドジャースの圧倒的な戦力を考えた場合、ローテーションを守る先発ピッチャーが2ケタ勝利をあげる難易度は、エンジェルス時代より確実にハードルは低くなっている。投手としてのタイトル、たとえば最多勝であったり、サイ・ヤング賞であったりは、間違いなく手の届くところにある。もちろん簡単なことではないが、それが2年続けてホームラン50本以上を記録するより困難なこと、とはわたしには思えない。

 

実際、エンジェルス時代の22年、彼はサイ・ヤング賞の投票で4位にランクされた経験がある。

 

昨年、大谷がMVPに選ばれたのは、純粋に打者としての評価、だった。二刀流という希有な立ち位置が評価された過去2回のMVPとは違い、1本の刀のみで獲得した栄誉だった。

 

となれば、残るはもう1本。

 

 

 

24年の大谷は走って走って走りまくり、50を超える盗塁数を記録したが、今年の場合、9月21日時点での盗塁数は19に留まっている。盗塁を試みることで、彼は試合中にも投手としてのトレーニングを積んでいる、という識者の見方があったが、だとしたら、二刀流の試運転に入った今年は、トレーニングで下半身に負荷をかけられているため、昨年ほどは試合中に走らなくても良くなった、と見ることもできる。むしろ、走りすぎて負荷がかかりすぎることをかけるため、意識的にブレーキをかけているのかもしれない。

 

だとしたら、二刀流を完全復活させる準備は、できあがりつつある。

 

打撃部門、投手部門、その両方でのタイトル獲得。どれほど創造力豊かな漫画家でさえ描けなかった領域、来年の大谷翔平はいよいよ足を踏み入れるのかもしれない。

 

【文章】金子達仁
【写真】田中雄二

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