画期的なサッカークリニックが、この夏に立ち上げられた。若年層の選手に向けた強化・育成を本気で狙うプログラムとして、『フットボールレジェンズクリニック』(以下FLC)がスタートしたのだ。 FLCの講師は、日本サッカー界の『レジェンド』と呼ばれるにふさわしい選手である。第1回は加地亮さん、第2回は福西崇史さんが務めた。いずれも、元日本代表のW杯戦士だ。 8月14日に東京都内のフットサルコートで開催された福西さんのクリニックは、『意識と選択~ボランチの攻守スキル解剖』をテーマとした。攻守に幅広く貢献する大型ボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2002年と06年のW杯に出場した福西さんのエッセンスが、小学校4年から6年生のサッカー少年たちに注がれていく。サッカーの「本質」を極めた「本物」の元プロサッカー選手による「本気」の指導が、いよいよスタートする。 「プロで活躍するには、サッカー選手として基本的なスキルをしっかり身に付けないといけないよ。ボールを止める、蹴る、動き続ける、考え続けること。試合のなかでプレーしているイメージで取り組もう」 福西さんの柔らかなあいさつにも、受講者たちは少し緊張気味だ。ここで武井択也コーチが「楽しくやっていきましょう! ミスをしてもいいんだよ!」と声を張り上げる。アシスタントスタッフのひとりである武井コーチも、ガンバ大阪、ベガルタ仙台、松本山雅FCで10年間にわたってプレーした元Jリーガーである。 クリニックの前半は「ビルドアップ時のプレーの意識と選択」を念頭に置いたトレーニングだ。と言っても、いきなり難易度の高い技術や戦術に取り組むわけではない。多様な年齢層のクリニックを担当している福西さんだけに、少年たちのレベルに合わせたメニューを用意している。 指導のポイントは積み上げだ。 最初のパス交換では、「止める、蹴る」を徹底する。フットサルコートの横幅より少し短い距離で、トラップからパスの動きを繰り返す。「自分が蹴りやすいところに止める」ことを身体に覚えさせ、次に「相手が止めやすいところに蹴る」ことを意識する。「ボランチはたくさんボールに触わるポジションだから、止める、蹴るの基本はしっかり身に付けなきゃいけないぞ」と福西さんがアドバイスをする。 トラップからパスへの動きがスムーズになったら、ワンタッチパスに移行する。ボールの軌道が乱れがちだ。 少年たちの苦闘を見た福西さんが、すかさず「インサイドキックは、足の内側に面を作ってボールにぶつけるイメージで蹴るんだ。ボールを足に当てるまで集中するんだ」と声をかける。言葉で説明するだけでなく福西さん自身がお手本を示し、さらには受講者たちに直接指導をしていく。「いまのはどうしてうまくいかなかった?」と福西さんが問いかけることで、子どもたちは自分のプレーをレビューする。漠然とボールを蹴るのではなく、しっかりと考えているのだ。 パスに時間を割いたら、より具体的な領域へ入る。パスを出したらサポートし、もう一度パスを受けてさらにパスを出す。試合中のボランチが、ボールの中継点になるイメージだ。 「サポートの距離が近すぎたら、パスを出すほうも受けるほうもちょっと窮屈になっちゃうんじゃないか? 距離が大事だよ」と福西さんが声をかける。黙々とボールを追いかける受講者たちに、さらにアドバイスが飛ぶ。 「パスのタイミングを合わせるには、声を掛け合ったほうがいいだろう? 自分が欲しいところ、欲しいタイミングを、声を出して伝えていこう」 ここまでは直線的だった動きにも、角度という要素が加わっていく。足元ではなく斜めにパスを出す。斜めにポジションを移してからパスを受ける。プレッシャーを受けながら右サイドからパスをもらい、左サイドの味方へつなぐ。 福西さんの声が、熱を帯びてくる。 「ボランチで一番需要なのは身体の向きだぞ。マークしてくる相手にボールを取られずに、味方にしっかりとつなぐにはどういう身体の向きがいいと思う?」 そういって自らお手本を示す。 身体の向きだけではない。パスの出し手も受け手も、ボールの角度とタイミングを考えながらプレーしていく。 さらにもうひとつ、福西さんが要素を入れる。 「視野の確保を意識しよう! パスを出す味方を、あらかじめ見ておくんだ!」 パスの受け手側にスタッフが立ち、複数色のマーカーコーンからひとつを選ぶ。受講者たちの「赤!」、「黄色!」といった声が響く。 ここでまた、福西さんが指摘する。 「見ることだけにとらわれちゃいけないよ! 丁寧にプレーすることを忘れないように」 ビルドアップの総仕上げは、ボランチを中心としたボールの動かし方だ。2列目(またはFW)に相当する選手から下げられたボールを受け、右サイドへパスを出す。リターンパスを受けて、今度は左サイドへつなぐ。もう一度パスを受け、タテパスを入れる──攻撃のスイッチとなるタテパスを入れるまでの一連の動きには、もちろん敵がついている。 止める。蹴る。パスやサポートの距離を考える。身体の向きを整える。視野を確保する──積み上げてきたものを、ひとつでも忘れてはいけない。 「何かをひとつを気にして、他の何かを忘れちゃいけないぞ。ひとるだけじゃなくて、すべてを正確に、速く。そうすれば、実際のピッチでもうまくプレーできるよ!」 ボランチの攻撃に焦点を当てたクリニック前半は、あっという間に終了した。福西さんは随時給水タイムを設け、その間に受講者たちとコミュニケーションをはかっていく。最初は遠慮ものぞいていた少年たちの表情には、はっきりとした充実感が浮かんでいる。 クリニックの後半は、『個人の守備と組織的な守備』を学んでいく。 まずは個人=1対1の守り方だ。 福西さんが受講者たちに聞く。 「ボールを奪うときには、身体のどちら側でぶつかるほうがいい? 僕は左側から相手に当たるほうが得意なんだ。自分の得意なサイドへ、敵を呼び込もう」 ボールを持った相手には斜めの態勢で対峙するので、得意なサイドが決まれば前足がどちらなのかも決まる。つまり、自分なりの守りの姿勢がはっきりする。 「1対1の場面では、相手が自由にプレーできない距離まで寄せる。そこで一度止まって、下がりながら相手を自分の行かせたいほうへ誘い込む。そして、取るんだ」 福西さんの説明は簡潔で分かりやすいが、もちろんすぐにはできない。頭で理解した動きを身体で表現するのに、受講者たちは戸惑う。それでも、1対1を繰り返していくうちに、少しずつ動きがスムーズになっていく。福西さんが自ら相手になっているので、実際に対峙しながら細かなアドバイスが届けられる。 「取りにいくタイミングは、ボールが相手の足元から離れた瞬間が狙い目だよ! よし、いまだ、そこで身体をぶつけて!」 自分の得意なサイドへ相手を誘導して、ショルダーチャージでボールを奪い取る。プロ選手が言うところの「自分の間合いに誘い込む」プレーを、受講者たちは福西さんの指導で身に付けていった。 守備をフォーカスしたトレーニングだが、もちろん試合を想定している。ボールを奪うことは、攻撃への第一歩だ。 「ボランチはマイボールにしたら終わりじゃないぞ。奪ったボールを味方につなげるところまでやろう」という福西さんの言葉に、受講者たちがすぐに反応する。パスを出すところまでプレーを続ける。 1対1の感覚がつかめたら、今度は2対1だ。福西さんや武井コーチらを相手に、ふたりでボールを奪い取る。 「ボランチは後ろにディフェンダーがいるポジションだから、うまく相手を誘い込んで2対1の局面を作るんだ」 クリニックも最終盤で、受講者たちもかなり疲れが溜まっている。そこで身体のぶつけ合いである。キツい。けれど、楽しい。2対2による奪い合い──もちろん、取ったあとは攻める──をみっちりとこなしたところで、90分のクリニックは終了した。 クリニックの開始時と終了時では、受講者たちの動きは明らかに変わっていた。短い時間に積み上げたものが、彼らの身体には確実に染みわたっている。少年たちの瑞々しい吸収力と、福西さんの指導が鮮やかにシンクロした結果だ。 「この短時間でこれだけ変われる。子どもたちの伸びしろには、いつも本当に驚かされます。あとは、日々のトレーニングでどれだけ意識してやっていけるかでしょう」 福西さんはそう言って、「頑張ってほしいですね」と笑顔を浮かべた。夏の東京のフットサルコートから、日本サッカーの成長につながる種が蒔かれた。 ※第3回以降のクリニックについては、『FOOTBALL LEGENDS CLINIC 事務局』のホームページでご確認ください。
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