熱心すぎるマニアは、そうでない方から「変態」と見られることがあるというが、だとしたら、わたしも立派な変態である。
あまりにもプーマが好きすぎて。
ニュルンベルク郊外、ヘルツォーゲナウラッハにあるプーマの本社アウトレットに足を運んだのは、一度や二度ではない。行くたび、約20万円ほどの商品を買いあさってきた。結果、フォーマルな場合を除き、わたしが履くもの、身につけるものはおしなべてプーマである。
プーマ愛に満ちすぎたわたしは、子供のころから現在に至るまで、アディダスの商品だけは着たことも履いたこともない。アディダスの創始者、アドルフ・ダスラーがプーマを作ったルドルフ・ダスラーの弟だという事実を知った高校1年生のとき、「我が人生において使用することなし」と誓ったのである。
弟よりもダメな兄。ビジネスでボロ負けな兄。わたしはそこに、自らの家族関係をダブらせてしまった。どうでもいいことだが、わたしは法政大学、弟は東京大学の出身である。
サイドステップに好きな文字を刻印できるイギリス車を買ったときは、『ヨハン・クライフ&マリオ・ケンペス』と刻んでもらった。どちらもW杯のスーパースター……というより、プーマの象徴だった。いつのころからか、わたしはプーマを履いた選手しか好きになれない身体になっていた。
ただ、残念なことに、というかそこが好きな理由の一つでもあるのだが、プーマは決してスポーツ業界の巨人ではない。従って、資本力に優るライバルたちとの契約金競争ではかなうはずもなく、結果としてスターたちはどんどんと他のメーカーに流出していった。
するとどうなるか。わたしはその選手への興味を失ってしまうのである。
たとえば、78年のW杯で活躍したイタリアのアントニオーニは大好きな選手だったが、ディアドラに引き抜かれた途端、どうでもよくなった。アルゼンチンのカニーヒアもまたしかり。
90年代は全世界の“プーマ狩り”が一番激しかった時代で、多くのプーマ・ユーザーがディアドラやロット、ナイキやミズノ、リーボックといった新興メーカーに引き抜かれた。94年のアメリカ大会では、70年W杯以来、脈々と続いてきた「決勝ではプーマ・ユーザーが輝く」という伝統は崩れ、というか、プーマを履いている選手自体がいなくなってしまった。
プーマ・ユーザーがいなくなったのは決勝戦だけではない。大会全体でたった二人。韓国のノ・ジュンユンとスウェーデンのアンデションというのが、わたしが発見したこの大会の絶滅危惧種である。
スポーツライターとなり、青春時代のアイドルに会えるようになってからも、わたしのプーマ愛は続いた。ただ、実際に会う回数が増えていくにつれて、気持ちは萎えていった。
ほとんどの選手にとって、スパイクなんてただの消耗品だったということを思い知らされたから。
自分の名前を冠したスパイクが発売されていたある選手は、そのこと自体を忘れていた。「なぜプーマと契約していたのですか?」という問いに、まるで試合後の記者会見で「あなたはなぜ朝食にパンを食べたのですか」と聞かれたかのごくとキョトンとした選手もいた。残念ながら、わたしの熱量に匹敵する愛を持った選手は、一人もいなかった。
いまにして思えば、それも当然。
わたしが子供のころ、日本は世界でも屈指の「サッカーの試合がテレビで見られない国」だった。国内にプロはなく、国外のプロに対する関心は皆無に等しく、W杯予選を西が丘で開催して対戦相手(インドネシア)に呆れられ、国外の試合になると生放送されないことも珍しくない。それがかつての日本という国だった。
そんな国に生息していた数少ないサッカーマニアは、月に1度か2度発売されるサッカー専門誌にかじりついた。毎週土曜日の東京12チャンネル『三菱ダイヤモンドサッカー』を除けば、それが世界の情報に触れられるほぼ唯一の機会だった。
いま、動く選手たちを当たり前に見られる時代になって、わたし自身、誰が何を履いているかということに対する興味は、大きく損なわれている。当然だ。メッシのスパイクに注目しているより、メッシのプレーを見ている方が圧倒的に楽しいのだから。
でも、昔は違った。マニアたちは、写真のクライフやベッケンバウアーを見て、その天才、異才ぶりを想像するしかなかった。だから、誰がどんなスパイクをどんなふうに履いているかは、いまとは比較にならないぐらい重要だった。
この夏、プーマはナイキとの契約が切れたネイマールをつかまえた。絨毯爆撃のアディダスに対し、一本釣りのプーマというかつての契約スタイルを考えれば、サッカー界では久しぶりにプーマらしい契約といえる。その逆パターンばかりを見てきた人間としては、セレソンではチーム最高のテクニシャンがプーマを履くというかつての伝統の復活を期待しつつ、隔世の感も覚えてしまう。
まさか、プーマにファッション性が期待される時代が来るとは、思わなかったなあ。
お気に入り一覧
OTHER
2026.05.21
【バスケ】ゾーンプレスの特徴は? 仕掛けられた場合の対策法も
OUTDOOR
2026.05.20
山ではヤマビル対策が必須! 被害を防ぐための方法と噛まれた後の対処法
GOLF
2026.05.19
タイトリストのフェアウェイメタルが劇的にやさしくなった! グッと深掘りゴルフギアVol.197 タイトリスト「GTS」フェアウェイメタル編
RUNNING
よしきさん・あいこさんと走って体感!「ナイキ ペガサス 42」試走イベントレポート
2026.05.18
バスケのバンプとは? 失点を防ぐために欠かせないプレーのコツ
2026.05.15
オリンピアン伊藤達彦こだわりの1足。最新作「ナイキ ペガサス 42」期待以上の推進力
FOOTBALL
渡辺皓太選手が語った、足元から生まれる自信。アシックス「DS LIGHT X-FLY 6」と“成長するための習慣”
2026.05.14
浅重心と空力性能で「速く振れる」のが魅力 グッと深掘りゴルフギアVol.196 タイトリスト「GTS」ドライバー編
Alpen Outdoors 5年の進化と次の挑戦|2026春新作2アイテム+開発者インタビュー!
タイトリスト「GTS」シリーズ発表! 浅重心と大MOIを両立し、「速く振れて曲がらない」ドライバーに進化
2024.10.03
守田英正の覚醒!森保監督との対話で掴んだ勝利への道
2025.06.12
アシックス GEL-KAYANO 32で怪我明けの初のフルマラソンに挑戦!スポーツMC岡田拓海のガチ走りシューズレビュー!千歳JAL国際マラソン出走レポート。
2019.06.10
ランニングでマメができたらどうする? 原因や対処法・予防法について解説
2020.05.18
腹筋強化にはクランチがおすすめ? 正しいやり方や種類を解説
2021.10.20
食後すぐのランニングはNG! 空ける時間の目安はどれくらい?
2023.01.26
メスティンでおいしくご飯を炊く方法とは? 炊き方の手順やポイントをご紹介
2020.07.08
トレッキングとは? 登山との違いや事前に準備したいもの、注意点など詳しく解説
2026.03.05
アルペンアウトドアーズ2026年新作9選!爆速設営テントが激アツ。オプションパーツも同時に多数展開。
2021.06.08
キャンプ場でおいしいご飯を食べたい! 必要なアイテムや炊き方のコツ
2020.07.10
トレイルランニングはどんなスポーツ? その魅力や必需品、注意点とは
BASEBALL
2023.09.28
【野球】ボークとは? ルールを知って反則を防ごう
2019.09.18
【野球】バッティングフォームの基本チェックポイントと練習方法とは?
2025.09.11
インフィールドフライとは? 今更聞けない野球の基礎知識
2022.02.21
【野球】チェンジアップとはどんな変化球? 特徴や握り方などを解説
2019.11.12
カットボールとはどのような変化球? 特徴や投げ方、練習時のポイントを解説
2023.06.14
サッカー界の異端児、鈴木優磨はストライカーとして日本サッカー界に何を残すのか
2022.02.10
【サッカー】オフサイドとは? 難しいルールを理解してプレーにいかそう
2025.01.10
サッカーの試合時間はどれくらい? プレー・観戦に役立つ基本ルール
2024.11.11
【サッカー】ドリブル練習はコツを意識すると効率的! 上達に必要な5つのコツ
2025.07.05
ゼロトルクパター6メーカー12モデルを徹底分析!それぞれゴルフ5でチェックしよう
2025.08.21
圧倒的な飛び性能。飛距離に全振りした公認球「トブンダ ワンライン」、全12色で新登場
2024.03.25
3月29日、アルペングループ最大級の旗艦店「Alpen NAGOYA」がオープン!
2022.02.07
バレーボールの「リベロ」とは? 役割や求められる素質などを解説
2021.07.26
バレーボールのサーブのコツは? 基本のフローターサーブを例に解説
2021.04.06
【バレーボール】スパイクの打ち方のコツとは? 種類や練習方法も知ろう
2019.11.14
プランクの効果とは? 姿勢や種類を知って体幹を鍛えよう!
PRODUCTS
2025.05.23
効果バツグン!雨も泥もヘッチャラ!シューズケアの革命『IMBOX』、スポーツデポ・アルペン、ゴルフ5に登場!!
2023.02.17
プロの視点で徹底考察!ニューバランス「THE CITY」を人気スタイリストはどう見るか?
2025.07.24
JO1と一緒に、この夏を思いっきり楽しもう。―MIDSUMMER COLLECTION【前編】
2020.05.11
クオリティ良し、デザイン良し、コスパ良しの3拍子が揃ったnextFIT(ネクストフィット)インソールが熱い!【後編】
2024.04.26
Alpen NAGOYAのチェックポイントはここだ!ゴールデンウィークは、Alpen NAGOYAへ遊びに行こう!