10月のオランダ遠征に続く、日本代表のオーストリア2連戦が終わった。
結果は、ご存じの通り1勝1敗。
メキシコ戦の後半が悲惨としかいいようのない内容だっただけに、厳しさを増してきている森保監督に対する風当たりはより風速を増すことが予想される。
ここで旗色を明らかにしておくと、サンフレッチェ時代に彼がチームに課している練習を見て以来、わたしは森保監督の哲学と能力に信頼を抱き続けている。
口ではポゼッション重視をうたいながら、いざとなったら「蹴れーっ!」と絶叫する指揮官が珍しくない中、森保監督は自陣から徹底的にボールをつなぐことを要求し、その過程でミスが出ても絶対に叱責はしなかった。
「いや、正直怒りたくなる時もあるんですけど、そこで怒ってしまったら、その選手は次からつなぐことを放棄してしまう。目先の失点より、そっちの方が失うものが大きいかなと」
やれフォーメーションがどうの、システムがどうのと論じたがるファン、関係者は増加の一途を辿っているが、そのほとんどは、枝葉の問題や対処療法に目くじらをたてているだけ、と言っていい。どういうサッカーをするか、そのためにどんな練習をするかという設計図と工程表を持っている日本人指導者は、残念ながら多くない。森保監督は、その数少ない一人だとわたしは思う。
ただ、メキシコ戦の采配はお粗末だった。
立ち上がり、主導権を握られかけた日本だったが、鎌田の突破や原口のミドルなどをきっかけに波に乗った。パナマ戦で絶妙のバランス感覚を発揮した柴崎、遠藤のボランチ・コンビはさらに成熟した姿を見せ、結果はともかくボール・ポゼッションで後れをとることはまずないメキシコと互角以上に渡り合う。
「前半の20分間ほどは、わたしが就任して以来、最悪の時間帯だった」
試合後、かつてバルサを率いていたメキシコのタタ・マルティーノ監督はそう振り返ったそうだが、わたしも、あれほどまでに押し込まれ、かつチャンスを作れないメキシコ代表は初めて観た。それぐらい、前半の日本は素晴らしかった。
もっとも、これはあくまでも親善試合だから起きたこと、でもあった。つまり、ワールドカップなどの公式戦であれば、メキシコはもっと日本のことを研究してきただろうが、この試合の前半、彼らはパナマ戦から9人のメンバーを入れ換えてきた日本のことをほとんど知らなかった。ゆえに、日本のいいところを消そうともしてこなかった。
後半、メキシコは2人のメンバーを入れ換えてきた。間違いなく、前半の日本を見て、何が必要か、何が相手にとってイヤなのかを考えての采配だった。
ここで一気に流れが変わっていたというのであれば、これはもう、メキシコの方が上手だったと脱帽するしかない。だが、現実は違った。メンバーが変わっても、試合の流れは変わらなかった。後半10分、ロマがこの試合初めて決定的なシュートを放つまで、日本が主導権を握る展開に変わりはなかった。
実力が拮抗した同士の試合では、1本のシュート、1回の決定機が試合の流れを変えることがある。惜しい!と思った側はより前向きに、危ない!と感じた側は慎重になることが珍しくないからだ。事実、前半の日本が主導権を握ったきっかけは、GKオチョアのファインセーブに阻まれた原口のシュートだった。
吉田が頭で弾き出したロモの一撃は、言ってみれば、日本にとっての原口のシュートのようなものだった。流れは、ここから変わりうる。試合の分水嶺だった。
ところが、ここで森保監督が動いた。鈴木に代えて南野、柴崎に代えて橋本を投入したのである。
この采配が、試合をブチ壊した。
柴崎と遠藤のコンビは、パナマ戦の後半から続く、日本の強さの源泉だった。森保監督としては、この2人のコンビにメドがついたので、ならば遠藤と橋本のコンビを試してみよう……とのことだったのだろうが、流れが動きかねない微妙な時間に、日本はストロング・ポイントの一つを解消してしまった。
ギリギリのところで保たれていた水面張力は破られた。突如として中盤の軸がいなくなった日本は急速にボールを保持する能力を失い、そこにメキシコが畳みかけた。拮抗した試合は一転してメキシコのワンサイドゲームとなり、その流れが変わることはもうなかった。
おそらく、森保監督からすれば、この時間でのこの交代はあらかじめ決めていたことでもあったのだろう。これはテストマッチ。いろんなことを試したい気持ちもわかる。
ただ、メキシコという実力国を相手に、それも試合の流れが動きかねない微妙な時間帯に、チームの根幹に手をつけてしまったのは完全な失敗だった。なにより、相手が日本を倒すために動いているのに、こちらはお役所よろしく決めておいた手順を踏んだだけ、というのでは、流れを一気に持っていかれても当然である。
この負けは、ちょっと深刻かもしれない。
多くの選手にとって、メキシコは是が非でも倒したい相手であり、自分たちの立ち位置を確認するための相手でもあったはず。そんなチームを相手に、途中まで互角以上の試合をやっていながら、ベンチの采配をきっかけに完敗してしまった。
不協和音は、たいてい、こんなときに起きる。
これが連戦の中の1敗であれば、その後の練習で、あるいは試合で修正していくこともできる。だが、日本代表にとって、これが今年最後の試合なのだ。
繰り返すが、わたしはいまも、森保監督を信じている。信じているが、試合後の“手当て”を間違うと、危ういことになりかねない、と危惧もしている。
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