長くサッカーを見てきたが、こんなにもいろいろと呆れさせられた試合はちょっとない。日韓戦について、である。
まずびっくりしたのは、この試合が決定した際に両国から噴出した反発の声だった。日本からは「韓国と親善試合をやるなんて」で、韓国からは「選手をコロナや放射能に汚染させるつもりか」がネットで散見された代表的なところだったか。
ただ、「そんな国と親善試合をするなんて」という日本側の声にも呆れた。彼らがひっかかっているのは「親善」という言葉なのだろうが、そもそも、「親善試合」が「親善」のために行なわれる、という発想自体が根本的に間違っている。
元来、この言葉は「フレンドリー・マッチ」という英語を和訳しただけなのだろうが、古今東西、両国の親善を深めるためにフレンドリー・マッチをした、と感じている選手がいたらぜひともお目にかかってみたい。サッカーにおける「フレンドリー・マッチ」とは、ボクシングにおける「ノン・タントルマッチ」のようなもので、これから仲良くしていくためにやりましょう、なんてものでは断じてない。
なので、韓国選手が冨安に放った肘うちについて、「親善試合であんなことをやるなんて」という声にもわたしはまったく賛同しない。親善試合だろうがワールドカップだろうが、勝つために手段を選ばないタイプの選手はどこにでもいる。敵からは蛇蝎のごとく嫌われ、見方からは兄貴と慕われる。
「あいつはボールより相手の足を蹴るほうが好きだったし得意だったからな」
いまはアトレティコ・マドリードの名将として知られるチョロ・シメオネについて、そう言って笑っていたのは、クラブ・レベルでは敵として、代表では味方としてプレーしたバティストゥータだった。
フレンドリー・マッチとは、来るべき本番のためにやるもの。ただ、国によっては親善試合と公式戦では露骨にテンションが変わってしまうところもあって、手を抜く国の代表格はイタリア、逆にいつもガチでぶつかってくるのがアルゼンチンというのが、わたしの個人的な印象だ。
本番のことを考えれば、できるだけガチな相手とやっておくに限るのは言うまでもない。そう考えると、この時期に韓国を練習台として選んだ日本サッカー協会の判断は、見事だったと私は思う。
いや、韓国以外にも歯ごたえのあるチームを呼ぶことだってできたはず、という声に対しては、「では、どこを?」と問い返したい。ヨーロッパではワールドカップ予選が行なわれている。直前になって中断が決まったものの、南米でも行なわれることになっていた。日本同様にヒマをもてあましていて、かつ歯ごたえのある相手──韓国を交渉相手として選んだのは至極当然である。
ただ、両国世論を結構な反発を押し切る形で行なわれた肝心の試合が、びっくりするほどに期待外れだった。おそらく、一番拍子抜けしているのは他ならぬ日本代表の選手たちではないか、とも思う。
韓国が弱すぎて。
かつて母国ポルトガル代表を率いていたベント監督は、間違いなく有能だとわたしは思う。ただ、日本との相性はよかったザッケローニが中国でさっぱりだったように、というかそれ以上に、韓国人が指向するサッカーとは合っていない気がする。
いい悪いは別にして、韓国のサッカーは常にパワー、激しさを基調としてきた。似たようなタイプでありながら、より大きく、強く、そして柔らかさもあるイランとの相性が最悪なのも、イタリアやスペインといった体格よりもテクニックで勝負する国となぜかかみ合うのも、そうした彼らの特性による。
だが、ベント監督の目指すサッカーは、それこそ日本人ならばどんぴしゃりなサッカーであって、韓国人が長年親しみ、愛してきたスタイルとはあまりにも違ってしまっている。結果、3月25日の韓国は、日本から見てもストロング・ポイントがまったくない、まるで歯ごたえのない相手になってしまっていた。
韓国もアジアのチームである以上、体格やパワーに頼るサッカーではいつか限界がくる、どこかで大幅に方向変換をする必要がある──そう考えてベント監督を招聘したであろう韓国サッカー協会の考えは理解できる。ある程度の軋轢が起きることも、彼らは覚悟してたはずだ。
だが、日本相手に、しかもあれほどの惨敗を喫してしまっては、ベント監督を支持する人も声をあげにくい。それこそ、声を大にしての親日発言をぶちあげるぐらいの覚悟が必要になってくる。果たして、衝撃的な惨敗で激昂している韓国の世論とのせめぎあいはどうなっていくのか。しばらくはのんびりと、対岸の火事を眺めさせてもらおう。
最後に心底呆れさせられたのは、試合翌日、韓国から伝わってきた両国ユニフォームについての話題だった。
韓国のユニフォームの胸には、太極旗と日章旗が縫いつけられていた。それがけしからんという。日本のユニフォームには日章旗しかなかった。それがもっとけしからんという。
正直、アホですか、というしかない。
韓国のオフィシャル・サプライヤーはナイキ。で、ナイキは前回のロシアW杯の時も、その後も親善試合でも、対戦する両国の国旗を胸につけて提供している。ま、例外もあって、たとえばフランスやブラジルはつけていなかったのだが、韓国は、ロシアでも、去年の親善試合でも両国の国旗を胸につけて戦っていた。
一方、日本のサプライヤーはアディダス。日本代表はロシアでも日の丸しかつけていなかったし、昨年の欧州遠征でもそうだった。
それがけしからんと?
韓国となんか親善の試合をする必要はない、という声は、あまりにもサッカーの歴史を知らない、かつナイーブで子供っぽい意見だと思う。
ただ、韓国のこういう反応に接するたび、わたしの中にナイーブで子供っぽい感情が込み上げてきている。
そんな自分に、いささか呆れてもいるのだけれど
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