鎌田大地の名前を見聞きするたび、ジネディーヌ・ジダンのことを思い出すようになった。
いまでは世界のレジェンドとしての地位を確立したジダンだが、その評価が定着したのは、それほど早い段階ではない。フランスの偉大な先達ミシェル・プラティニはもちろんのこと、マラドーナやクライフ、メッシやクリスティアーノ・ロナウドが10代の頃から高い評価を受けていたのに比べると、20代半ばまでのジダンは、必ずしも傑出した存在ではなかった。
もちろん、フランス国内では“次のプラティニ”として大きな期待を寄せられてはいたが、アルジェリア移民の子、という出自もあってか、人気の面ではパッとしなかった。彼にとって初めてのビッグクラブとなったユベントスでも、チームに溶け込むまではメディアやファンからむしろ叩かれる存在だった。
周囲が彼に対する印象を一変させたのは、第一にフランスW杯での優勝であり、次に、“銀河系軍団”と呼ばれたレアル・マドリードでの活躍だろう。いずれも、彼が20代半ばを過ぎてからのことである。
ジダンという選手の出現と変貌は、偉大とは言い難い10代を過ごした選手であっても、サッカー史に名を残す選手たりえるということは証明された。
そこに、鎌田大地がダブる。
17年、鳥栖からフランクフルトへの完全移籍が決まったと聞いたわたしは、21年の鎌田がまったく想像できなかった。出場機会が得られるか自体が疑問だったし、まさか、日本代表に欠かせない存在になろうとは、正直、夢にも思わなかった。
フランクフルトでの1年目、鎌田はサッパリだった。開幕戦こそスタメンで出場したものの、チーム内における立場は下落の一途を辿り、結局、このシーズンのリーグ出場機会はわずかに「3」だった。その直後にベルギーのシントトロイデンへのレンタル移籍が決まった時、わたしの頭の中に浮かんだ単語は「都落ち」だった。
ここから、鎌田の信じられないような逆襲が始まった。
日本人に限らず、一度「都落ち」的な移籍を経た選手が、再び檜舞台に返り咲くことは極めてレアなケースだといえる。10代の選手ならばまだしも、ある程度完成していることが前提とされる20代の選手であれば、まずありえないと言ってもいい。
ところが、鳥栖での3シーズンで13得点しかあげていなかった男は、シントトロイデンでの1シーズンは12ゴールを叩き出す。慌てたのか、喜んだのか、フランクフルトはわずか1年で鎌田を呼び戻すことにした。
日本代表からも初招集の声がかかった。
初代表は19年3月22日のキリンカップ、対コロンビア戦だった。恥ずかしながら、この試合での鎌田がどんなプレーぶりをみせたか、わたしにはほとんど記憶がない。その特異な存在感に初めて気付いたのは、翌年10月、11月に行なわれた欧州遠征のときだった。
日本サッカー協会の原博実常務理事がジダンについて語っていたことを思い出した。
「みんなさあ、マルセイユ・ルーレットが凄いとか、スルーパスが凄いとか言っているけど、ジダンの一番凄いところって、トラップでしょ。どんなボール、どんな態勢でもピタッと止める。あれだけ綺麗にボールを止める選手って、歴代のスーパースターを見てもちょっといないよね」
そう言われて以来、わたしには、ジダンの足にトリモチがついているようにしか見えなくなった。小柄な選手の巧みなトラップは珍しくもないが、粘着感のあるトラップをする185センチとなると、なるほど、そういるものではない。
鎌田の身長は、184センチだった。日本人として大柄な部類に入る彼は、体格に恵まれた利点を存分に生かしつつ、小柄な選手であってもそうはできないビタ止めを連発した。そして、相手がより激しく身体を寄せてくると、あざ笑うかのようにダイレクトでボールをはたくスマートさもみせた。
何より驚いたのは、鎌田一人が入ったことで、日本代表のサッカー自体が1ランクか2ランク、ステップアップしたように感じられたことだった。
20-21シーズンの鎌田は、フランクフルトのためにさほど多くのゴールを量産したわけではない。ただ、シーズンを通じてあげた5得点のうち、1得点はドルトムント、もう1得点はバイエルンから奪ったものだった。このあたりも、総得点は3ながら、そのうちの1点が決勝戦での伝説的なボレーだった01-02シーズンのジダン、チャンピオンズ・リーグのジダンとダブる。
というわけで、鎌田大地はわたしがいま一番惚れ込んでいる選手である。
ちょっと残念なのは、仮に五輪が無事に開催されたとしても、そこでプレーする鎌田は見られなそう、ということ。マラドーナから「サッカーを楽しんでいないように見える」と酷評されていたユベントスでのジダンが、一皮むけるきっかけとなったのは、地元開催のW杯とそこでの優勝だった。
もちろん、五輪とW杯を同列に論じるのはナンセンスかもしれないし、現時点で鎌田とジダンとの間に小さくない差が横たわっているのは事実。それでも、ここで日本が優勝し、その中心に鎌田がいた──なんてことになれば、一気に彼の人生と評価が変わりそうな気がする。
ジダンとまではいかないまでも、中田英寿や本田圭佑を超える存在になることは、十分にありえると思うのだ。
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