毎年のことながら、年の瀬も押し詰まってくるとお約束でやってくるのが「今年1年を振り返って」というテーマ。もちろん、今年も例外はございませぬ、ということで、極私的な21年の5大ニュースを考えてみた。
5位は……東京五輪にする。金メダルを目標にして臨んだ大会だったが、金はおろか、銅にも手が届かないという結果に終わった。
もちろん、わたし自身もガッカリはしたし、もう少しやり方があったのでは、と思う部分もある。ただ、スペインやメキシコを相手に完全に主導権を握った時間帯があったこと、3年後の開催国でもあるフランスを圧倒したことは評価したい。チームとして、というより、個々の能力が一定レベルに達しつつあることに対して。
つい最近まで、日本のサッカーが世界で戦うためには、組織で対抗するしかないというのが多くの人の共通認識だった。個々の力では勝てない。ゆえに組織で戦う。これはサッカーに限らず、日本人論、日本社会論にも通じる部分がある。
だが、東京五輪で日本の武器となったのは、むしろ個人の力だった。ほとんど何もできないまま圧倒されていた3位決定戦のメキシコ戦では、三笘がピッチに立った途端にすべてが変わった。メキシコのテレビ局では、三笘のプレーを「まるでネイマールじゃないか」と絶賛していたそうである。
これからの日本サッカーは、個でのマイナスを組織で埋めるという発想ではなく、個のアドバンテージをより生かすために組織を作る、と考えるようになるだろうし、なっていかなければならない。そういう意味では、ちょっとエポックメイキングな大会になったのでは、と思っている。
4位は、W杯最終予選におけるオマーン戦での敗退にする。
曲がりなりにも五輪で準決勝に進んだことで、わたし自身、最終予選に対する警戒心は確実に薄れていた。もちろん、サウジアラビアやオーストラリアは十分に警戒すべき相手であり、初戦の相手が彼らであれば、森保監督はもちろんのこと、試合に携わるすべての人間がテンションと危機感を最大限に高めて臨んでいたことだろう。
だが、相手はオマーンだった。手こずったことはあっても、圧倒されたことは過去一度もない相手だった。いくら相手が準備万端で向かってくるにしても、敗北の危険性をリアルに感じていた人間がどれだけいたかどうか。
実際、オマーンの実力が前評判通りだったことは、その後、他国との戦いで証明されていった。たっぷりと時間をかけ、対策を練ることのできた初戦の日本戦だけが特別だった。そして、その特別なオマーンに食われてしまったことで、初戦の彼らだけが特別だったと気付けなかったことで、日本の歯車は全面的に狂った。
サウジに負ける。オージーに食われる。当然、現場はショックを受けるだろうが、戦う以上、敗北はある程度折り込まれたことでもある。だが、アウトサイダーだと見られていたオマーンに、内容的にも厳しい展開で負けたとなると、培ってきた自信が根本から揺らいでしまう。何とか現時点では予選突破圏内の2位にまで順位をあげてきてはいるものの、3月に韓国を木っ端みじんに粉砕した頃とは完全に別のチームになってしまった。たった1試合でチームはこんなにも壊れるものか──そう改めて教えられた気がしている。
3位にはバルセロナのチャンピオンズ・リーグ敗退をあげたい。
彼らがグループ・リーグで姿を消すのは21年ぶりとのことだが、21年前、スペインはワールドカップで優勝したことのない国であり、バルサがビッグイヤーを掲げたのはクライフ時代の91-92シーズンのただ1度のみだった。多くのスペイン人はイタリアやドイツ、フランスに対するコンプレックスを捨てきれておらず、バルサが世界的に特別な存在になるなど、どれほど楽観主義のカタルーニャ人でも思い描くのが難しい時代だった。
つまり、あの頃のバルサは、敗北が世界的なニュースになるようなチームではなかった。
だが、ここ数年の彼らの戦いぶりは、田舎の金満チームとしか見られていなかった時代よりももっとお粗末なものに成り下がっていた。正直、バイエルンに8発ブチこまれた昨年の準決勝でバルサの名声は地に墜ちていたのだが、今回のグループ・リーグ敗退でだめ押しの一撃を食らってしまった感がある。バルセロナに留学し、長くバルサTVのコメンテーターをやらせてもらった人間としては、残念という他ない。
2位は、広州恒大に象徴される中国のバブル崩壊だろうか。
良くも悪くも、ここ10数年の世界のサッカーはチャイナ・マネーによって動いてきた。そして、ピッチを純粋に金儲けの場としてだけみた場合、世界で最も魅力的なピッチは中国本土にあった。世界的にはほぼ無名の選手であっても、2ケタ億円もの大金を手にできてしまう異常さには、羨望半分、嫌悪半分といった目が世界から向けられていた。
ただ、発足時に世界中からスターを買い漁ったJリーグが、徐々に日本人選手のレベルを高めていったのに対し、中国人選手のレベルはなかなかあがらず、中国代表の競争力も一向に高まらなかった。
そんな時期に起きたバブルの崩壊は、おそらく、中国サッカーのあり方を根本から揺るがすことになる。少なくとも、いままでのように戦力不足をすべて外国人選手で解決するというやり方は成り立たなくなるだろうから、一時的にはリーグのレベルも落ちるだろう。
反面、従来よりは育成に力を注ぐチームも出てくるはずで、長い目で見れば、今回のバブル崩壊が中国にとって飛躍のきっかけとなる可能性もある──悠久の歴史観で眺めれば。
では、最後に極私的な2021年のニュース第一位を。
それは……イタリアの復権!
いやいや、いくらヨーロッパ・チャンピオンになったからって、来年のW杯に出られないかもしれないのに、と思われる方がいるかもしれない。プレーオフ決勝の相手はおそらくポルトガル。正直、アズーリが消える可能性は決して小さなものではない。
ただ、それでもユーロでの彼らの戦いぶりは見事だった……というか、個人的には衝撃だった。まさか、あのイタリアがこんなにも自分たちで主導権を握るサッカーはやってこようとは!
4年前、中田英寿さんと一緒に彼がイタリアで所属したすべてのクラブを巡ったことがある。その際、ヨーロッパの一線級から転落したかに見えたセリエAで、様々な改革が進んでいると肌で感じることができた。中国を始め、外国からの資金が流入するようになり、施設面から選手の待遇に至るまで、多くの面が変わり始めていたのである。
あの時感じた「数年後はきっと、イタリアが復権する」との予感は、今年、きちんと形になって現れた。仮にW杯出場を逃すことがあっても、セリエAの復調が続く限り、アズーリの地力は高まっていく。
その国のサッカーを強くする“特効薬”はないかもしれないが、“方法”は確実にある。イタリアの復権は、そのことを改めて教えてくれた。わたしにとっては、文句なしに今年一番のニュースだった。
というわけで、読者の皆さん、今年1年お世話になりました。では、また来年に!
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