フットボールは、イングランドで生まれた。そして、イングランドで生まれたあるフットボーラーが、こんな名言を残した。
「フットボールというのは本当に単純なスポーツだ。22人の選手たちがボールを追いかける。そして、最後にはドイツが勝つ」
発言の主は、33年前のイタリアW杯準決勝で西ドイツに敗れた直後のゲーリー・リネカーだった。21世紀に入ってからのサッカーファンには想像がつかないかもしれないが、このリネカーの言葉、当時のファンには刺さった。強烈に刺さった。最後にはドイツが勝つ。いつもドイツが勝つ。勝てそうもない状況からでも勝つ。そんなイメージが、世界中で共有されていたからだった。
シュツットガルトの中軸として活躍してきた遠藤航のリバプール移籍が決まった。ずっとプレミアでのプレーに憧れていたらしい遠藤にとっては、待望の移籍といえるだろう。ただ、受け入れる側の反応はといえば、ブンデスリーガのデュエル・キングがやってきたことを全面的に歓迎する……というわけではなかった。いや、もちろん歓迎する声もあったのだろうが、そうした声に負けないぐらい「は?」という反応が強かった印象がある。
プレミア・リーグとブンデスリーガ。選手のギャランティやレベルを比較した場合、前者が圧倒的な優位にあるのはいうまでもない。ただ、リネカーの言葉が響いた世代の人間にとって、ドイツは依然として恐るべき存在であり続けている。実際、W杯の実績を比較しても、イングラントとドイツでは正直、勝負にすらならない。
ただ、隆盛を誇るプレミア・リーグしか知らない世代からすると、ブンデスリーガでの実績が「だから、何?」と思えてしまうのも事実だろう。アメリカ人が日本のプロ野球に関心を持たず、日本人が韓国プロ野球をほとんど見ないように、ブンデスリーガを日常的に目にしているイングランドのファンが多くない、という点も関係しているかもしれない。思い出すのは数年前、『韓国のホームラン王を獲得した』というニュースに接した際の、半信半疑だった自分自身の反応である。
もっとも、大外れだったウィリン・ロサリオ(阪神タイガース)とは違い、リバプールでの遠藤は相当にやるとわたしは見ている。どれぐらいやるか。イメージしているのはグラッドバッハからアーセナルに移籍し、今季またブンデスリーガのレバークーゼンに加わったスイス代表のグラニト・ジャカである。年齢を度外視すれば、グラッドバッハ最終年のジャカ(24歳)より、遠藤の方がだいぶ上ではないか、とも思う。
サイズがあり(183センチ)、左利きでもあるジャカは、グラッドバッハ入団当時、エレガントなプレイメイカーとしての役割を期待されていたし、本人もそれを目指していた印象がある。だが、バイエルンやドルトムントほど駒が揃っているわけではないグラッドバッハでは劣勢の試合も多く、崩れそうな中盤を支える仕事が増えていった。
もちろん、低めのポジションから急所をつく一発のロングパスには魅力も威力もあった。ただ、アーセナルが彼に目をつけたのは、そうしたパスセンスというより、高さも含めたディフェンス面ではなかったかとわたしは見ている。実際、当時のグラッドバッハの中盤におけるジャカの守備力は、ずば抜けていた。
ちなみに、ジャカは4シーズン在籍したグラッドバッハで108試合に出場し、6ゴールを記録している。いうまでもなく、これは彼を攻撃的なミッドフィールダーとして見るならば、相当に物足りない数字である。言い方を変えれば、アーセナルが彼を攻撃的な選手とは見ていなかったからこそ、この数字でも声をかけたのではないか、ということにもなる。
一方、遠藤はシュツットガルトに入団した当初から、華麗なパスやドリブルといった攻撃的な役割はほとんど期待されていなかった。チームが彼に求めたのは、いまも昔も変わらぬ守備力。言ってみれば、かつてのブラジル代表におけるドゥンガのような役割だった。
ところが、遠藤は期待された役割をほぼ完璧にこなしたばかりか、期待されていなかったはずの攻撃面でも力を発揮した。2部リーグだった1年目は1得点のみだったが、1部での3シーズンは99試合に出場して12得点と、ジャカのアベレージと総得点を大きく上回っているのである。
アーセナル移籍初年度のジャカは、やってはいけないゾーンでのやってはいけないミスが目立ち、ファンやメディアから手厳しい批判を浴びた。それは、彼自身がプレイメイカーとしての幻影を捨てきれていなかったから、かもしれない。
だが、遠藤に関してその心配はまずない。ベルマーレでも、レッズでも、日本代表でも、遠藤はいつも遠藤だった。誰かを生かす、あるいは生かしてもらうタイプの選手だと、周囲の顔ぶれや相性にプレーが左右されることもあるが、自らも、そして他者からもプレーの第一義を「潰す」ということに置いている、置かれている遠藤の場合、環境に影響される可能性はジャカや、あるいは香川などに比べればかなり低い。
よって、リバプールでの遠藤は大丈夫。シーズンが終わる頃、「は?」とか言っていたリバプールのファンは己の見る目のなさを痛感することになる……というのがわたしの見立て。
ただ、そんなこんなより興味深いというか、ある意味衝撃的なのは、ネットの主役たる世代の、ドイツ・サッカー全般に対するリスペクト、あるいはコンプレックスのなさ、である。
3年前のユーロ決勝トーナメント1回戦でイングランドがドイツを下すと、リネカーはつぶやいた。
「もう“最後にドイツは勝つ”という言葉は終わりにしよう」
あれほどドイツの強さ、しぶとさに苦しめられた世代の象徴が、自らの“名言”を撤回したのである。圧倒的だった時代のドイツを知らない世代が、ドイツを、ブンデスリーガを完全なる格下、あるいは自らを脅かすには足らない存在と捉えるのは、ある意味で当然なのかもしれない。
そして、遠藤はそうした風潮を決定づけた人間の一人でもある。
ご存じの通り、昨年のW杯でドイツは日本に逆転負けを喫した。アジアのチームに逆転負けを喫し、かつ決勝トーナメント進出を逃すようなチームを、どうしてイングランド人が恐れる必要があろう。
というわけで、一部のリバプールのファンが遠藤を軽視するのは、遠藤たちがドイツをやっつけてしまったことも無関係ではない、と見るわたしである。
遠藤からすれば、これはかなり“おいしい状況”かもしれない。高くない期待値は、遠藤のようなタイプ、つまり得点やアシストといった見えやすい仕事を主とするわけではない選手からすると、地位を築いていく上で恰好のポジションだからである。
気付いてみたら、遠藤抜きのリバプールは考えられなくなっていた──そんな近未来の訪れを、わたしは期待し、予想している。
お気に入り一覧
RUNNING
2026.10.16
NEW BALANCE ELLIPSE(ニューバランス エリプス)北海道マラソン2026出走レポート
FOOTBALL
2026.10.15
サッカーのシャドーとは? 役割や必要な能力をわかりやすく解説
OTHER
「すぐに動けそう」なフィット感。渡邉伶音と片峯聡太監督が体感したJordan「TATUM 5」
OUTDOOR
2026.10.14
デュオキャンプで2人だけの時間を過ごそう! 成功の秘訣はギア選び
GOLF
2026.10.13
「もうひと蹴り」で心地よく走る「新世代走り系」 グッと深掘りゴルフギアVol.216 グラファイトデザイン「ツアーAD EK」シャフト編
【バレーボール】オーバーネットとは? よく見る反則の基礎知識
2026.10.10
黒田朝日、新谷仁美が全力応援!日本新記録も誕生!限界に挑む「ADIZERO 5K TOKYO CHALLENGE」
アディダス×アルペンがランナーの挑戦を後押し。「ADIZERO 5K TOKYO CHALLENGE」直前スペシャルクリニック
BASEBALL
2026.10.08
野球のOPSとは? 野球をさらに楽しめるセイバーメトリクスの指標の見方
背番号物語(第8回)~Jリーグの歴史を彩った「9番」を振り返る
2023.09.28
【野球】ボークとは? ルールを知って反則を防ごう
2024.09.13
バレー初心者が知っておきたいプレーのコツとは? コツを掴んで楽しみながらプレーしよう
2019.06.10
ランニングでマメができたらどうする? 原因や対処法・予防法について解説
2025.07.05
ゼロトルクパター6メーカー12モデルを徹底分析!それぞれゴルフ5でチェックしよう
2025.11.21
<Road To HAKONEから見るシューズ事情>駅伝シーズン開幕!出雲駅伝でのシューズ事情をアイビーリーグ選抜と比較してみる
2026.01.09
シューズから見た2026年箱根駅伝(総評版)
2021.07.19
ランニング中はスマホをどう持ち運ぶ? おすすめの方法やアイテムをご紹介
2021.06.08
キャンプ場でおいしいご飯を食べたい! 必要なアイテムや炊き方のコツ
2023.01.26
メスティンでおいしくご飯を炊く方法とは? 炊き方の手順やポイントをご紹介
2024.02.20
ガレ場・ザレ場とは? 山道の安全な歩き方を身につけよう
2020.07.08
トレッキングとは? 登山との違いや事前に準備したいもの、注意点など詳しく解説
2024.05.16
【女性向け】山登りはおしゃれな服装で楽しもう! 服選びの基本と季節ごとのコーデ例
2019.09.18
【野球】バッティングフォームの基本チェックポイントと練習方法とは?
2022.02.21
【野球】チェンジアップとはどんな変化球? 特徴や握り方などを解説
2019.11.12
カットボールとはどのような変化球? 特徴や投げ方、練習時のポイントを解説
2026.05.13
野球の「振り逃げ」はどんなルール? 奥が深いルールの詳細を知ろう
2024.11.11
【サッカー】ドリブル練習はコツを意識すると効率的! 上達に必要な5つのコツ
2019.10.11
サッカースパイクの選び方の基本(スパイクの構造とトレンド)
2019.07.17
【サッカー】リフティングが上手になるコツと練習方法とは?
2019.03.26
【サッカー】ケガの防止にもつながる! スタッドの種類を解説
2023.06.21
都会の中心で輝くAlpen TOKYOのサッカー売場。その規模と品揃えを紹介!
2026.08.07
大阪・梅田に「AlpenOSAKA」がオープン! 「ゴルフ5フラッグシップストア大阪梅田」は2フロアで展開
2026.10.07
「スピーダーNX」の新作は“すっぽ抜けない”つかまり系先中調子 グッと深掘りゴルフギアVol.215 フジクラ「スピーダーNXホワイト」シャフト編
2025.08.21
圧倒的な飛び性能。飛距離に全振りした公認球「トブンダ ワンライン」、全12色で新登場
2026.10.06
「試合より緊張します(笑)」加藤麗奈が初イベントで明かした優勝セッティング Alpen NAGOYAで初トークショー
2020.05.18
腹筋強化にはクランチがおすすめ? 正しいやり方や種類を解説
2026.08.25
【卓球】促進ルールとは? 試合を円滑に進めるための規則を知ろう
2024.02.14
バスケの試合時間は何分? プレーにも役立つルールを覚えよう
2021.07.26
バレーボールのサーブのコツは? 基本のフローターサーブを例に解説
PRODUCTS
2025.05.23
効果バツグン!雨も泥もヘッチャラ!シューズケアの革命『IMBOX』、スポーツデポ・アルペン、ゴルフ5に登場!!
2022.06.01
IGNIOからNewエッセンシャルシリーズが登場! 今年の夏は、街歩きの一軍シューズに!
2024.04.26
Alpen NAGOYAのチェックポイントはここだ!ゴールデンウィークは、Alpen NAGOYAへ遊びに行こう!
2024.11.15
度会隆輝選手、アディダススポーツウェア『standard.1』で魅せる洗練されたスタイルとプロのこだわり
2023.02.17
プロの視点で徹底考察!ニューバランス「THE CITY」を人気スタイリストはどう見るか?