サッカーの世界一決定戦をやろう、と思いついたジュール・リメは偉大だし、スポーツの力によって世界平和に貢献したい、と考えたクーベルタン男爵ピエール・ド・フレディはもっと偉い。
サッカーのW杯が、あるいは五輪が世界平和に貢献したかはともかく、これらの大会がなければ世界がいまとはまったく違ったものになっていたことは容易に想像がつく。スポーツイベントの熱気は、過去1世紀で国境や文化、宗教の壁を確実に低くした。異なる国で生まれ、異なる文化の中で育ち、異なる言語を話し、異なる神を信じる人々が、もはや全くの異邦人ではないことを、多くの人が理解している。
スポーツは、確実に人々の距離を近くする。
ただ、そうなるためには一定の時間と、もう一つ、あの種の情熱が必要になってくる。
81年2月11日、それまでインターコンティネンタル・カップと呼ばれたクラブチーム世界一決定戦が「トヨタカップ」と名を変え、枯れた芝生の国立競技場でナシオナル・モンテビデオとノッティンガム・フォレストが戦ったことを、イングランドのメディアはほとんど報じなかった。
わからないではない。彼らは、66年に地元で大会を開くまで、W杯という大会自体にも猜疑心的なスタンスをとっていた。もし中国人が、あるいは韓国人が柔道の世界大会をオーガナイズすることになったら、日本人がどういう反応を示すか──そう考えてみると、フランス人が創り出した大会にイングランド人が前のめりになれなかった理由もわからないではない。
ただ、地元開催のW杯を体験したことで、さらにW杯の熱が世界中に広がっていったことで、さしものイングランド人もW杯を無視できなくなった。70年代に入ると、W杯の出場を逃すと国中が大騒ぎになるような、そんな国にイングランドは変わっていった。
WBCもそうだった。第1回大会が東京ドームで始まった時、観客席には相当数の空席があった。わたし自身、10枚単位でチケットを渡され、「ぜひ知人の方とご覧になってください」と広告代理店の方から頭を下げられた記憶がある。あの時点で、第1回の野球世界一決定戦は、アメリカ人はもちろんのこと、日本人にとってもまるで重要な大会ではなかった。
空気を変えたのは、韓国との再三に渡る戦いだった。韓国の人たちは「向こう30年、日本にはちょっと手を出せないという感じで勝ちたい」というイチローのコメントに激昂し、日本の人たちは1次ラウンド、2次ラウンドで韓国に連敗した際、相手が見せた度を越したパフォーマンスに燃え上がった。良くも悪くも、日韓両国の熱量があればこそ、WBCは途中で盛り上がりに欠ける大会にならずに済んだ、と見ることもできる。
さて、2024年現在、日本人の、あるいは日本メディアのアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)への関心は、熱は、それほど高いものではないように感じる。アジアで勝つことにさほどの重要性を見出せない人が多いのかもしれない。
ただ、大会の熱量は、確実に増してきている。
横浜Fマリノスの戦いぶりを見ていると、尚更そう思う。
凄まじかったのは、豪雨の中で行なわれた、蔚山現代との準決勝第2戦だった。敵地での第1戦を0-1で落としていたマリノスは、13分に植中が相手の連携ミスをついて先制点を奪うと、21分にアンデルソン・ロペス、30分には再び植中が立て続ける強烈なミドルを決め、ほぼ安全圏に入ったかと思われた。
ところが、35分にCKから1点を返されると、39分にはペナルティエリア内でスライディングをした上島の手にボールが当たってしまい、蔚山にPK、上島にはレッドカードが与えられてしまう。これを決められてスコアは3-2。ヨーロッパ・チャンピオンズ・リーグと違ってアウェー・ゴール2倍のルールはないものの、勝ち上がるためには一人少ない状況でもう1点を奪うか、凌ぎきってPK戦に持ち込むしかないという絶体絶命の状況にマリノスは追い込まれた。
もちろん、そうはさせじと蔚山の攻めには勢いが増す。同じく長い時間10人での戦いを余儀なくされたパリ五輪・アジア最終予選の中国戦の“危険度”が「10」だとすれば、蔚山の攻撃には優にそれを倍しても足りないほどの迫力があった。
マリノスは耐えた。感動的なまでの献身で耐えた。GKポープ・ウィリアムは神がかりにも近い働きを見せ、ディフェンスが、そして守護神が破られた際は、横浜国際のゴールポストが立ちはだかった。その数、実に3回。日本代表はもちろん、年代別の代表、さらには過去のACLを振り返ってもちょっと記憶にないぐらいの猛攻を浴びながら、マリノスは120分を凌ぎきった。
ほぼ一方的に攻めた側と攻められた側。PK戦に入った際、どちらが嫌な予感を覚えるかはいうまでもない。5人目をポープ・ウィリアムに止められた蔚山に対し、マリノスは5人全員がしっかりと決めた。
実はこの試合、知人の娘さんが観戦に行っていた。熱心なマリノス・ファンで、かなりの観戦歴を持つ彼女だが、この試合の興奮や感動は、一生忘れないという。おそらく、それは冷たい雨でずぶ濡れになりながら祈り続けたほとんどすべての観客に共通する思いだろう。地上波ではオンエアされず、ニュースでもそれほど大きく取り上げられたとは言い難かったが、しかし、ACLという大会の重みは、多くの人に刻まれた。W杯やヨーロッパ・チャンピオンズ・リーグのように、とてつもなく重要なものが懸かっている舞台でなければ起こり得ない名勝負が、雨の横浜で演じられた。
思えば、南米側だけが盛り上がっていたトヨタカップの熱がヨーロッパにも広がるきっかけとなったのは、プラティニのいたユベントスと、ボルギを擁するアルヘンティノス・ジュニアーズが激突した第6回大会だった。
当時、イタリアは世界のサッカーの中心地として誰もが認める存在であり、そんな国の、ユベントスというジャイアント・チームがトヨタカップのために必死に戦う姿は、この大会に冷笑的だった多くの人の認識を改める結果となった。残念ながら途中から大会の方式が変わり、また開催地が日本を離れたことで、大会の権威はまた一から作り直すに等しい状態となってしまったが、あのまま続けていれば、W杯並の注目を集めるイベントに育ったのではないか、とわたしは密かに思っている。
話がそれてしまった。見た人の記憶に長く残り続ける死闘を、今年、マリノスはやった。マリノスのファンはもちろん、Jリーグで他のチームを応援しているファンからも、「ここまで来たら優勝を」という声が上がっている。
イタリアであれば、インテルの敗北をミラニスタは喜ぶし、エスパニョールのファンは、チャンピオンズ・リーグの決勝でバルサがACミランに惨敗した直後、自分たちのスタジアムに忍び込み、でかでかと「ありがとうミラン!4-0」との落書きを書きなぐった。スタジアムには複数の警備員がいたはずなのだが、なぜか、不法侵入者を止めようとした形跡は見られなかった。
自分の愛するチーム以外は敵、と考えるヨーロッパのスタイルがいいか悪いかは別にして、日本ではACLになればJリーグ・ファンが一致団結する流れが生まれつつある。となれば、熱の広がりはより速い。
この原稿を書いている時点で、まだ決勝第2戦は行なわれていない。第一戦でUAEのアルアインを2-1の逆転で下したマリノスだが、正直、カップに手が届く可能性はまだまったくの五分、と見る。
ただ、どんな結果に終わろうとも、準々決勝、準決勝で彼らが見せた戦いが、日本人にとっては「世界」に比べるとまだそれほど重要ではないACLを、一つランクアップさせたことは間違いない。
W杯を楽しんで、五輪を楽しんできた日本のサッカーファンは、また一つ、新たな楽しみを手にすることになる。
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