(上記画像:湘南ベルマーレはJ1昇格1年目の18年に、リーグカップを制した)
J1とJ2の力の差がなくなってきた、と言われて久しい。
J1昇格チームが1年目から上位に食い込む、J2からJ1のチームへ引き抜かれた選手が戦力となっている、といったことがその理由だ。J2からJ1を経由せずに、ヨーロッパのクラブへ移籍する選手も出てきている。J2の競争力や競技力の向上は、対外的にも認められていると言っていいのだろう。
J1昇格後に成功を収めたチームとして、湘南ベルマーレをあげたい。
2010年から17年までに、湘南は3度のJ2降格を経験した。上位と下位のカテゴリーを行ったり来たりする間には、アカデミー出身でのちに日本代表主将となるMF遠藤航、大卒で獲得した元日本代表MF永木亮太らを移籍で手放すのだが、その間にチームは地力を蓄えていく。
4度目のJ1昇格となった18年からは、J1に定着している。同年にはJリーグ発足後初のタイトルとなるリーグカップ(ルヴァンカップ)を獲得した。
J1での戦いは、25年で8シーズン連続となる。J2で戦っていた当時を知らない選手やファン・サポーターが増えている。湘南というクラブが、新たなフェーズへ投入しているのだ。
FW町野修斗やFW大橋祐紀のように、湘南から海外へ移籍していった選手もいる。アカデミー育ちのDF小杉啓太は、18歳の誕生日を迎えた直後にスウェーデン1部のクラブに移籍した。また、高卒で加入4年目の鈴木淳之介が、6月の活動で日本代表に初招集されている。湘南は選手が育つクラブとしての地位を確立しながら、J1で上位を狙えるチームへステップアップをはかっている。
アビスパ福岡もJ1に定着した。21年に長谷部茂利監督のもとで昇格すると、「5年周期でJ1に昇格し、1年でJ2へ逆戻り」という悲しい歴史に終止符を打つ。昇格1年目の21年は8位、22年は14位。23年は7位に食い込み、クラブ史上初のタイトルとしてリーグカップ制覇を成し遂げた。
長谷部監督は24年シーズン限りで勇退し、金明輝監督がバトンを引き継いだ。サガン鳥栖監督やFC町田ゼルビアヘッドコーチの経歴を持つ新たな指揮官は、福岡のJ1在籍年数をさらに延ばしていけるだろうか。
J1昇格1年目の24年、町田はいきなり優勝争いを演じた
24年シーズンの昇格チームは、J1リーグを大いに盛り上げた。
まずはFC町田ゼルビアだ。高校サッカーの強豪・青森山田高校の監督から転身した黒田剛監督が、就任1年目の23年にJ2優勝によるJ1昇格を果たした。町田はクラブ史上初めて、国内トップカテゴリーで戦うこととなった。
24年シーズンは日本代表GK谷晃生、元日本代表CB昌子源、コソボ代表CBイブラヒム・ドレシェヴィッチら守備陣を強化し、開幕から5戦負けなしの好スタートを切る。敵陣に入ったら迷わずロングスローを使い、リードしたらDFの人数を増やしても逃げ切る割り切ったスタイルで、前半戦を首位で折り返した。シーズン途中から相手の包囲網が厳しくなったものの、J1初昇格のチームでは歴代最高となる3位でフィニッシュした。
J1に新たな風を吹き込んだのが町田なら、復活を印象づけたのは東京ヴェルディだ。24年シーズン開幕前はJ2降格候補にあげられていたものの、野心溢れる20代前半の選手を期限付き移籍で獲得し、就任3年目の城福浩監督がチーム全体の力を引き出していった。08年以来16シーズンぶりとなったJ1で、白星先行の6位に食い込んだのである。
もうひとつの昇格チームであるジュビロ磐田は、20チーム中18位でのJ2降格となった。磐田は22年にも、1年でJ2に降格している。かつて鹿島アントラーズと2強時代を形成した名門が、J1定着に苦しんでいる。 J2降格については、実はあまり知られていないジンクスがある。
2018年以降のJ1では、「昇格チームのうち1チームが、1年でJ2に降格」しているのだ。18年はV・ファーレン長崎、19年は松本山雅FCが、昇格1年目で降格した。20年は新型コロナウイルスの影響で降格制度がなかったが、21年は徳島ヴォルティスが17位でJ2へ逆戻りとなった。22年は前述の磐田で、23年は横浜FC、そして24年は磐田である。
25年シーズンは清水エスパルス、横浜FC、ファジアーノ岡山が昇格チームとしてJ1に参戦している。
清水は3シーズンぶりのJ1で、存在感を示している
清水は16年以降に2度のJ2降格を味わっており、3シーズンぶりのJ1だ。アルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本山雅FCの監督として4度のJ1昇格を経験している反町康治ゼネラルマネージャーサッカー事業本部長は、「トップ10以内」を目標に掲げる。そのうえで、「シーズン中により高い目標へ修正できるようにしたい」と話す。
23年途中から指揮を執る秋葉忠宏監督は、「超攻撃的、超アグレッシブ」をキーワードに、現代サッカーに必要なプレー強度を選手に要求しつつ、スペクタクルなフットボールを目ざしている。
その中心となるのが、乾貴士だ。
ドイツとスペインのクラブでプレーしてきたこの元日本代表は、秋葉監督の指揮下でサイドアタッカーからトップ下へポジションを変え、華麗な技術を存分に披露している。そのテクニックと意外性、創造性は、37歳のいまこそがキャリアの絶頂期と言いたくなるほどだ。
初挑戦のファジアーノ岡山も健闘している。勝っても負けても1点差が多く、接戦へ持ち込むことで辛抱強く勝点を積み上げている印象だ。J1に昇格したからといって即戦力を大量に補強したわけではなく、22年から指揮を執る木山隆之監督のもとでチームとしての練度を高めている。
そのなかで、新加入の元日本代表MF江坂任、フィジカルモンスターのブラジル人FWルカオが、攻撃で違いを生み出している。さらにはFC東京から期限付き移籍のMF佐藤龍之介が、ブレイクを予感させている。右サイドから相手守備陣を切り裂くこの18歳は、6月にW杯予選を戦う日本代表に選出されたのだ。
清水、岡山に比べると、やや苦しんでいるのが横浜FCだ。23年のJ1で得点力不足に苦しんだことを教訓として、シーズン開幕前に日本代表歴を持つFW鈴木武蔵、開幕後にMF山田康太とFWルキアンを獲得したが、今回も得点力に苦しんでいる印象だ。
その一方で、守備陣は健闘している。GK市川暉記、CBンドカ・ボニフェイスらを中心に、クリーンシートも少なくない。ロースコアの攻防へ持ち込むことが、勝利数を増やすカギと言えそうだ。
ジンクスは未来を予想する道しるべに成り得るが、いつかは破られるものでもある。そして、ジンクスを当てはめることがためらわれるほどに、今シーズンのJ1リーグが混戦となっているのは間違いない。
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