北京、ロンドン、リオと3大会連続でオリンピック日本代表に選ばれ、現在は2020年東京オリンピックを目指す陸上短距離選手の金丸祐三選手。 「美しさ」に惹かれて陸上競技の道へ進み、高校3年生から日本選手権11連覇など結果を残し続けてきた彼は、現在も「陸上競技道」を探求し続けている。 そんな彼の「感覚」に重きを置く練習スタイルや、「メリハリ」を大切にする日々の姿勢は、学生時代に確立したものだという。本インタビューでは、金丸選手の「陸上競技道」の軸を形づくる、部活動時代の経験について話を聞いた。 ■陸上競技の美しさに惹き込まれた ──金丸選手が陸上競技を始めたきっかけを教えてください。 僕は2人の兄の影響で小学生のころはサッカーをやっていたのですが、レギュラーになれるかどうかというレベルだったんです。ただ、足の速さは一番でした。それで中学に上がったら自分の得意な短距離走で力を伸ばすのが良いんじゃないか、ということで陸上競技を始めました。 それともうひとつきっかけになったのが、テレビで見たアトランタオリンピックでの、マイケル・ジョンソン選手の走りです。独特のフォームと衝撃的な速さがすごく印象的で、当時見たどのスポーツ選手よりも記憶に残っています。 ──マイケル・ジョンソン選手の走りを見て、どんな憧れを抱いたのでしょうか? 世界新記録を出すなど記録面でのすごさはもちろんですが、それ以上に芸術に近い魅力を感じました。走るフォームやスピードが、美しいと感じたんです。「速く走るために限界を突き詰める」という、陸上競技の精神にも惹かれました。理屈ではなく感覚的に、陸上競技の世界がとにかく「かっこいい」と感じたんですよね。 ──中学で実際に陸上競技を始めてみて、いかがでしたか? 陸上競技は個人種目だということを、身をもって実感しました。部活動の仲間や先輩はいるけれど、試合中は誰にも頼ることができません。信じられるのは、自分の力だけです。だからこそ、試合の日は朝からとても緊張しますし、結果が出ないとすごく無力感を覚えることもあります。でも、そのぶん良い記録を出せたときのうれしさは、何ものにも代えがたく、そのままどんどん陸上競技にのめり込んでいきました。 ──陸上競技の名門・大阪高校に進学後は、インターハイで優勝されるなどぐんと記録を伸ばされました。活躍の要因は何だと思いますか? 「フォーム」と「意識」の2つの変化が大きかったのではと思います。 中学時代はまだ知識もそれほどなく、自分では良いと思っていたフォームに無駄が多かったりもしました。高校に入ってからは得られる情報の質が上がりましたし、名門校に入れたことで周りの選手から学べることも増えて、少しずつフォームを改善していくことができたんです。 そして意識の面では、「チャレンジ」できるようになったのがよかったと思っています。高校に入って、自分より速い選手がいることが当たり前になり、良い意味でプレッシャーから解放されました。「勝てば金星」くらいの気持ちで、積極的に先輩に「一緒に走ってください」と挑めるようになったんです。その結果、より良い練習ができるようになり、力がついていったのだと思います。 ──大学に進んでから、ケガに悩まされながらも日本選手権で優勝を続けるなど結果を残すことができたのはどうしてだったのでしょうか? 僕は、ケガは限界を追い求めて攻めた結果であって、仕方のないものだと考えているんです。こういった心持ちでいるとメンタル的には結構楽で、比較的早く「どんなことがケガにつながってしまったのか」「次に進むためには何ができるのか」と、気持ちを切り替えて要因や改善点を考えられるようになります。この意識が、ケガをしても長く勝ち続けられた礎になったのではないでしょうか。 そして、大学時代には何よりも「限界を超え続けること」の大切さと大変さを学びました。ものすごくきつい練習を乗り越えようとするとき、「これ以上はどうなってしまうんだろう」と、怖さを感じてしまうことがあるかと思います。それでも恐怖に打ち勝って限界の一歩先へ進むことで、初めて記録に結びついてくるんです。限界を超え続けるためのメンタルは、大学時代にかなり鍛えられました。 ■陸上の「道」を極めたい ──その後社会人になって、陸上生活にはどんな変化がありましたか? 一番は、モチベーションの変化です。大学までは部活動という枠組みのなかで当たり前のように陸上を続けてきましたが、社会人になるといろいろなことが自分の判断に委ねられ、自由になります。極端な話、「やらない」という選択肢もあるわけです。だからこそ、日々のモチベーションを大切にするようになりました。 ──現在、金丸選手にとってモチベーションになっているのはどんなことですか? 「陸上の道を極めたい」という思いです。僕にとって、もはや陸上競技は人生の一部。だからこそ、もっと深く「道」を探求し続けたいと思っています。30歳を過ぎても記録を伸ばし続ける方法や、練習に対する姿勢、ほかの選手の考えなど、とにかく陸上競技に関わるいろいろなことを知っていきたい。それから、エンターテインメント色あふれる競技の実現や、競技者目線で感じる陸上のディープな魅力を多くの人に発信する方法など、普及面でも考えたいことがたくさんあります。 ──現在、トレーニングで大切にしていることはありますか? これは僕が中学生のころから意識していることで、まずは、頭のなかに理想のイメージを描くこと。そして、そのイメージに自分の動き近づける努力を重ねることです。これには、自分の感覚に耳を澄ませることが大切。「腕の角度がこうだと、足の動きはこうなって、上半身がこう動く」というように、ひとつひとつの身体の動きを感覚的に捉えて整理し、微調整を繰り返していきます。 それから、「必ず良いイメージで練習を終える」のも、心がけていることのひとつです。何かうまくいかないことがあったとしても、それを改善できれば結果的に成長につながると捉えて、プラスに考えるようにしています。短距離走の世界は、「練習すればするほど記録が伸びる」というものではありません。だからこそ、ポジティブに試行錯誤を重ねることが重要なんです。 ■大切なのは「メリハリ」と「自分を知ること」 ──シューズにはどんなこだわりを持ってきましたか? 僕は「感覚」を大切にするタイプなので、できるだけ違和感なく自分の足にマッチしてくれるシューズを選ぶようにしてきました。なかでも、接地時の感覚が掴みやすいと嬉しいですね。それとトレーニングシューズの場合は、ある機能に特化するよりも、全体のバランスが良く「悪いところが少ない」のが重要だと思っています。アシックスの「LYTERACER(ライトレーサー)」は、まさにそんなシューズだと感じました。バランスが取れているからこそ履き心地が変に残ることがなく、ほかのシューズの感覚を邪魔しないので、使い分け用の2足目にもいいですね。耐久性や値段設定も含めてトータルバランスがすごく良いので、特に学生にはおすすめです。 ──金丸選手から、陸上競技を頑張る学生にアドバイスを送るとしたら何を伝えますか? まずは、メリハリを心がけることが大切。しっかりと自分の感覚に耳を澄ませるには集中力が重要になってきますが、集中はずっと続くものではありません。そこで、練習の合間の楽しみを見つけることも必要です。僕自身、学生時代は雑念を一切排除してひとつひとつの練習に集中することを心がけながら、合間の時間には仲間と話して笑い合ったりもしました。それから、オフの日には陸上競技のことを考えずに、本や漫画に没頭したり、中学生のころから好きな将棋を見て過ごしたりしています。四六時中陸上競技のことを考えて疲れてしまうと、いざ頑張りたいときに頑張れなくなってしまうので、オンオフの切り替えはすごく大事です。 それから、「自分を知ること」を心がけてほしいと思います。たとえば「どうして陸上競技をやっているのか」を掘り下げることで意識が変わることもありますし、「好きな食べ物」ひとつとっても、経緯を振り返ってみると新しい気付きがあったりします。自分を知ることができれば、今の自分に合った良いチャレンジができるようになり、どんな結果も経験に変えてどんどん世界を広げていけるはずです。 ■プロフィール 金丸祐三 陸上競技選手。1987年生まれ。大阪府出身。大阪高校─法政大学─大塚製薬。専門は短距離走。高校3年生から日本陸上競技選手権大会の男子400mで11連覇を達成した。08年北京オリンピック、12年ロンドンオリンピック、16年リオデジャネイロオリンピック代表。現在は大塚製薬に所属し、2020東京オリンピック出場を目指す。
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