アシックスから業界初のバットが生まれた。先進的な飛ばし屋バット「レガートゼロ」だ。業界初の「空気の復元力でボールを飛ばす」AirBump構造。さらには内部の空気圧を自分で変えられるというカスタム性。 この全く新しいバットを作り上げたのは、アシックススポーツ工学研究所(ISS)。開発に携わった北山裕教さん、野村亮さんのお二人、そして開発に協力した株式会社ミカサの小川龍太郎さん(リモート参加)に、お話を伺った。 北山「打撃部には、AirBump構造というものが搭載されていて、エア注入口があります。 AirBump構造は筒状になっていて、ポンプを用いてエアを入れます。抜くことも出来ますし、空気を抜いた状態だと結構柔らかい感じです。推奨は3気圧(約294kPa)です」 ――このバットをいつから開発されていたのですか 北山「2017年の1月からなので、足かけ3年くらいですね。苦労の連続で…まさかこんなにかかるとは思っていませんでした」 ――今までの素材とは全く違う「空気」を使うことになったのは、「サッカーボール」からヒントを得たということですが 北山「弊社の研究ではよくコンピューターシミュレーションを使います。色々な材料のバットをコンピューター上で構成していって、空気がいいというのがある程度理論的に分かり、そこから『空気といえばボール』『ボールといえばミカサさん』ということでミカサさんに協力を打診しました」 ――AirBump構造というのは、打球部がボールそのもののイメージなんですね。開発に協力されたミカサさんは、打診を受けた時どう感じられましたか 小川「最初、空気で飛ばすバットの話を聞いたとき、『あ、面白そうだな』と思いました。畑違いなので迷惑かけてはいけないなという思いもすごくありましたが、『今出来ることを一生懸命やろう』ということで取り組みをスタートしました。あともう一つはミカサがちょうど新規事業を何かできないかと模索している時期でもありましたので、若い技術者を交流させて、会社としてもレベルアップ出来ると思いました。両社の思いが合致して、いいものが出来たということは、すごく喜ばしいと感じています」 ――開発中に苦労された点などお聞かせください 北山「バットの保形というのが難しかったですね。内圧が高くなればなるほど空気というのは、膨張するため、レギュレーションでもある、最大径が70mm未満になるよう抑えなければならず、形状を維持するのがとても大変でした。基本形状が出来てからも、試打により、バットに衝撃を与えるなどトライアンドエラーで駄目なところを抽出していって、ミカサさんとディスカッションを重ねて今の構造が完成しました。 ――復元力が反発力に変わる仕組みを教えてください 野村「イメージとしては低反発の枕のような感じです。ぐーっと押すとなかなか戻っていかない。逆にちょっと堅いスポンジだと、ぐっと押すとすぐに戻る。それが復元力で、復元力が大きければ大きいほど、それが反発に繋がるということです」 北山「材料によってエネルギー損失というのは全て変わってきます。速度が速くなると、軟式のボールというのはエネルギー損失が大きくなっていくんですね。空気は理論的にはエネルギー損失がゼロですので、その空気を用いて復元力を増すという形です。当社の反発測定器で計測したところ、当社従来品と比較してグリップから70cmの位置で反発係数が約13%アップすることが分かりました」 ――エネルギーを損なわない復元力が、ボールの飛距離となって表れるんですね。バットの表面については何か新しい材質が使われているのでしょうか 北山「基本的にはサッカーボールなどと同じです」 小川「開発の途中ではボールで実績のないものなども試したんですが、やはりボールで実績のある材料の方が性能が良いんですね。でもゴムと一言で言っても配合によって反発性など変わってきますので、アシックスさんと確認しながら材料を選んで使っています。こうした面では『ミカサだからこそ出来た』と言いたい気持ちはありますね。 あとバルブコア。空気を入れる部分に関しては、ボール用のバルブですと少し大きいので、2cmほどの空気の隙間に合うようなバルブを開発しました。何パターンかも試して、かなりいいものが出来たと思っています」 ――打つ時の打感はどうでしょうか 北山「内圧を3.5気圧(約343kPa)近くにすると、結構弾きがある感じで、2.5気圧(約245kPa)ですと、バットの方も変形するので、食いつくような感覚です。私は『打ち運ぶ』と呼んでいるのですが、そういう感覚で打てます。反発性能としては3気圧(約294kPa)がよいですが、『飛び』よりも『打感』といった趣向のある方ですと、お好みで変えていただいてもよいと思います」 ――よくプロ野球選手が軟式球を打つと「ボールが潰れて飛ばない」と言いますが、それも飛ぶように出来るということですか 北山「はい、出来ます。ピッチャーの球速に合わせて、球が速ければ内圧を上げ、遅ければ内圧を下げて、その人に合った内圧にしてもらえれば、潰れにくくなると思います」 ――出来上がった製品についてどんな思いを持っておられますか 小川「この前、トクサンTVでレガゼロを使っている動画を見せて頂きました。他の製品のレビュー動画なども併せて見て、『確かにこれはすごく先進的なものになっているのかもしれない』と。あんなにバンバンホームランが出るというのは。逆にこれホームランしか出ないんじゃないかと(笑)」 野村「あの動画見ると本当に勘違いしますよね(笑)」 小川「10回くらい見させていただきました。非常にいい製品が出来たんじゃないかと思っています」 → トクサンTVの動画はこちら ――どんな方にお勧めでしょうか 北山「飛距離を伸ばしたい方にはお勧めですね。また、このバットの特徴は自分で空気圧を加減出来るところです。始めて間もない方などスウィングスピードが遅くても、自分で気圧を下げればボールは飛んでいくので、初心者の方にも使って頂きたいです」 野村「弊社内で行った試打会では、女性が打ってボールをしっかり飛ばしていましたよ。一本のバットで空気圧が調整出来るので、色々試したり、駆け引きの材料として使っていただきたいです。そして一番は、『野球楽しいな』という思いが、どんどん広がってくれればいいなと思っています」 ――最後に、ご自分の仕事についてのやり甲斐を教えてください 北山「スポーツメーカーとして、スポーツを行う方々のパフォーマンスをいかに上げるかということを、数値的、理論的に、スポーツの用具でやれるというところです。もともとスポーツがすごく好きだったので、そういうところに携われるのはやり甲斐があります」 野村「自分が携わったものが市場に出る時ですね。そこからどういう反響を得られるか。こういう風に注目されることは非常にありがたいです。日の目を見ない商品もあるなかで、携わったものが商品化され、ユーザーに満足して使ってもらえる。このことがモノづくりの醍醐味だと思います。 小川「やはりプレーヤーの能力を引き出すような技術開発がやり甲斐になると思います。ミカサは今「健康」をキーワードにボールだけではない開発にも取り組んでいます。その土台があったから、アシックスさんともバットで組むことができました。この素晴らしい商品開発に携われたこと、商品化までやり遂げたことを誇りに思います。」 全く新しいバットを作り上げることは、実績のあるアシックスであっても、長きにわたる試行錯誤を必要とした。性能評価・品質評価では、内圧変化の分析、高圧・低圧での実験、破損試験など、従来品にない多くの試験を実施し、高い機能と性能持続を証明してきたバットである。その成果には開発者の絶対的な自信が窺えた。
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