2021年のマラソン界で、まず触れるべきは東京五輪だろう。
男子マラソンは陸上競技の最終日となった8月8日、午前7時にスタートした。日本からは19年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)優勝の中村匠吾、同2位の服部勇馬、MGCファイナルチャレンジで3人目の枠を得た前日本記録保持者の大迫傑の3人が出場した。大迫は7月29日に、このレースを最後に引退することを表明していた。
レース序盤はゆったりとしたペースで進む。16年リオデジャネイロ五輪金メダルのエリウド・キプチョゲ(ケニア)らが大きな先頭集団を引っ張り、大迫と服部選手もついていく。中村は第2集団を構成した。
中手は前半のうちに遅れてしまい、20キロ過ぎから服部も先頭集団の背中が遠くなる。サバイバルの様相を呈していくなかで、大迫は食らいついていく。
レースが大きく動いたのは30キロ過ぎだった。キプチョゲのペースアップで、集団がばらける。大迫は遅れてしまい、8位で先行する選手を追いかけていく。
36キロ付近で2人の選手を抜いた大迫は、順位を6位に上げた。2時間10分41秒のタイムで、そのまま6位でフィニッシュした。
優勝は2時間8分38秒でゴールテープを切ったキプチョゲで、史上3人目となる五輪連覇を達成した。
大迫は2012年ロンドン大会6位の中本健太郎に続いて、日本勢2大会ぶりの入賞を果たした。レース後には「やりきったという気持ちがすべてです」と切り出した。
「みなさんにメダルを期待してもらって、僕自身もチャンスがあればと思っていたが、(どの選手も)メダルを目ざして走っていたので、今回はそのチャンスがなかった。ただ、自分自身の力はしっかりと出しきれたのではないかと思う」
マラソンランナーとしてのラストランを終えた。92年大会以来の五輪でのメダル獲得は、後進に託すことになる。
「キプチョゲ選手は強いけれど、2位集団は『あと一歩だな』というところにあると言える。今日のレースを見ていた選手たちも、『次は自分だ』と感じたはず。それをできたことが、僕自身が最後の役割として、陸上界に残せたものではないかと思います」
日本勢で2番目にフィニッシュしたのは中村だった。タイムは2時間22分23秒で、62位に終わった。レース後には「内定をいただいてからの2年間は、どちらかというと辛いことが多かったが、いろいろな方の支えでスタートラインに立つことができた。こういう結果ではありますが、最後まで走れてよかったという気持ちです。これまで支えてくださった方々に感謝しています」と話した。
服部は2時間30分08秒で73位に終わった。ゴール直後に車椅子で医務室へ搬送され、深部体温が40度以上の重い熱中症と診断された。症状が落ち着いたあとに取材に応じ、日本代表としての誇りとプライドを言葉にした。
「これまで支えてくださった方や応援してくださる方が頭の中で思い出されて、最後までたどり着くことができた。また、これまで戦ってきたライバルや、MGC でともに戦った選手たちの思いを踏みにじるようなことは絶対にしたくないと思い、絶対に最後まで諦めずに走りたいと思った」
男子に先駆けて7日に行なわれた女子マラソンは、前日夜にスタート時間が午前7時から6時に変更された。少しでも涼しい時間帯に競技を行なうためだったが、それでも猛暑のなかでのレースとなった。
日本からはMGC 1位の前田穂南、同2位の鈴木亜由子、MGCチャレンジで派遣設定記録をクリアした一山麻緒が出場した。
レースはスローペースで動き、日本勢は先頭集団を構成する。20キロ過ぎで先頭集団が縦長になると、前田と鈴木が遅れはじめる。
一山は33キロ付近まで先頭集団に踏みとどまり、その後も粘りの走りを見せる。2時間30分13秒の8位でフィニッシュした。金メダルを獲得したペレス・ジェプチルチル(ケニア)とは2分53秒差で、日本勢としては04年アテネ大会以来の入賞を果たした。
フィニッシュの瞬間に両手を広げた一山は、「今日できる走りは最後までできたと思う。この大会に向けては、『もうこれ以上、頑張れない』と思うところまでやって臨んできた。いままでやってきた成果がこの8番。勝てなかったけれど、悔いはありません」と言い切った。
一山に続いてフィニッシュしたのは鈴木だ。2時間33分14秒の19位だった。
「ハーフを過ぎてから、しっかりと先頭につくことができなかった。そこは力が及ばなかったなと思うところ」と、中盤に粘れなかったことを悔やんだが、「一歩一歩諦めずに、練習してきたことを信じて最後まで走りきれたので良かった」とまとめた。
前田は2時間35分28秒で33位に終わった。大会が1年延期になったことで、「コンディションとモチベーションを保つのが難しかった」と明かしたが、「国内でオリンピックという大会に出られたことはすごく貴重な経験だと思うので、その経験を生かして、次に向けて頑張りたいです」と前向きに締めくくった。
2024年のパリ五輪に向けた競争も、すでに始まっている。
12月5日に福岡国際マラソンが開催され、26歳の細谷恭平が日本勢最高の2位となる2時間8分16秒を叩き出しした。4位の大塚祥平、5位の高久龍、6位の上門大祐までの4人が、パリ五輪代表選考会となる次回のMGC出場を決めている。
年が明けた22年からは、女子もMGC出場を賭けたレースがスタートする。パリ五輪へ向けた競争が、徐々に本格化していく。
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