スコットランドのセルティックで3人の日本人選手が暴れている。現地での評価はうなぎ登りで、セルティック・ファンの中では早くもイングランドへの流出を懸念する声があがっているという。
なぜ彼らは成功しつつあるのか。理由の一つとしてスコットランド・リーグのレベルをあげる人がいるが、わたしは全面的に反対、大・大・大反対だ。
確かにリーグ全体のレベルは高くない。下位チームのやっているサッカーは、単に質が低いだけでなく、いささか時代後れでもある。ただ、旗手や前田、古橋が所属しているのはセルティックである。サッカーというスポーツの枠組みを越え、スコットランドという地域、ケルト人という民族、カトリックという宗教を象徴する存在でもある。1887年、アイルランド系移民がこのチームを作っていなければ、約60年後、ボストンのバスケットボールチームがセルティックスを名乗り、緑と白をチームカラーにすることもなかったかもしれない。
「スコットランドのレベルは低い。だからセルティックで活躍するのは簡単だ」とのたまうのは、だから、「日本野球のレベルは低い。だから阪神で活躍するのは簡単だ」と鼻で笑うに等しい。というか、その10倍にしても足りないぐらいだと個人的には思う。特別なチームで活躍するのは、まったくもって簡単なことではない。マイク・グリーンウェルならよくわかるはずだ。
旗手たちの活躍を受け、グラスゴーにあるセルティック・ファンの集うパブが、店に日の丸を掲げたことで論争を巻き起こした、というニュースもあった。よりによって第二次大戦で戦った国の国旗を飾るとは何事だ、というのである。
これもまた、セルティックならではの騒ぎと言っていい。
現地でその場面を見たわけではないのであくまでも推測になるが、騒ぎ、というか、日の丸に怒りを露にしたのはかなりの確率でレンジャーズのファンだろう。グラスゴーを本拠地とするもう一つの巨人。アングロサクソンという民族、プロテスタントという宗教を象徴するチームでもある。
同じ街を本拠地にしながら、この両チームの関係は極めて悪い。“オールドファーム”と呼ばれる彼らのダービーマッチが放つ熱は、クラシコやマージーサイドでさえお上品に感じられてしまうほどである。レンジャーズのファンは英国国旗であるユニオンジャックを掲げ、セルティックのファンは、同じケルト民族の国でもあるアイルランドの三色旗で応戦する。
ちなみに、レンジャーズのファンが第二次大戦での敵の旗にアレルギー反応を見せるのはわからないでもないが、セルティックのファンからすれば、そもそもユニオンジャックが侵略者の旗ということにもなる。
第二次大戦における日本の敵国だったフランスやイングランド、オランダのファンは、いまや何の抵抗もなく日の丸などをスタジアムに持ち込んでいる。旗手たちが所属したのがレンジャーズであれば、おそらく、日の丸に対する反応はその他の国の国旗に対するものとさして変わらなかったはずだ。
だが、彼らはセルティックの選手だった。レンジャーズのファンからすれば、その存在に強烈な嫌悪感を抱く人までいる、長い長い不倶戴天の敵だった。グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国の構成員として高い誇りを持つレンジャーズのファンにとって、セルティック・ファンのやったことが売国行為に映ったであろうことは容易に想像がつく。
というわけで、セルティックで活躍する、ファンの心をつかむのは並大抵のことではないということは、ある程度お分かりいただけたと思う。ではなぜ、彼らは成功したのか。
理由として真っ先にあげられる、というか、あげなければならないのは、ポステコグルー監督の存在だろう。
世界的な名門とはいえ、現在のセルティックは世界トップクラスのクラブではない。イングランドのクラブに比べると、予算の規模は格段に落ちる。
マリノスをJリーグの頂点に導いた時にも感じたのだが、このオーストラリア人監督はひょっとすると世界的な名将となりうる資質を持っている。当然、セルティックは野望への第一歩であり、ここで結果を出すことが、彼の今後につながっていく。
では、予算に限りがある中、いかにして戦力を補強していくか。ポステコグルー監督が目をつけたのは、自身もよく知っているJリーグの選手だった。彼の目には、JJリーガーたちの手にしているサラリーが、その実力に比べると相当に低く感じられていたのだろう。日本人であれば、セルティックの予算でも何とかなる、と。
ポステコグルー監督を巡る報道の中には、彼が親日家だから日本人を呼んだのだ、とでも言いたげなものもあったが、個人的には失笑モノでしかない。いや、仮に親日家だったとしても、そんなもののために自分のキャリアにリスクを生じさせるセンチメンタルな監督などいるはずがない。何より、もし属していた集団への愛を優先させるなら、真っ先にオーストラリアの選手を呼んでいなければおかしい。
ポステコグルー監督は、旗手の、前田の、古橋の正確なキック力に目をつけたのでは、とわたしは思っている。緻密なサッカーを展開するには、緻密な技術が必要になる。だが、一般的に考えて、そういったタイプの選手は安くない上に少数派である。Jリーグを知り、日本人選手を知り、かつ交渉の窓口を知っていたことを、彼はフルに活用した。
日本人選手の側からしても、監督が自分のプレーの特徴を知ってくれているということは非常に大きい。なおかつ、彼らもまた、ポステコグルーがどんなサッカーを指向していたかを知っている。
つまり、近来稀に見るウィン・ウィンの関係が、グラスゴーで実現したのである。
ポステコグルーは、ひょっとすると、オーストラリア人として初めてとなる世界的な名将になるかもしれない。同じように、いま彼のもとでプレーする3人は、日本人アタッカーがたどりついたことのない境地に足を踏み入れることになるかもしれない。
日本にはかつて、自分たちの文化を不当に低く評価し、ただ同然の値段で美術品を欧米に流出させてしまった時代があった。ポステコグルーとセルティックが成功することで、日本サッカー界における岡倉天心が出現してくれれば、こんな嬉しいことはない。
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