(上記写真:名門チームの再建を託された大島秀夫監督)
1993年のJリーグ開幕からこれまで、トップカテゴリーのJ1リーグで戦い続けているクラブはふたつしかない。鹿島アントラーズと、横浜F・マリノスである。鹿島は史上最多の8度のリーグ優勝を誇り、F・マリノスは優勝5度で2位である。
どちらも、リーグを代表する名門にして強豪と言っていい。とりわけF・マリノスは、Jリーグ開幕前に日本サッカーを牽引した日産自動車サッカー部を前身とする。クラブの歴史に、厚みと重みがあるのだ。
そのF・マリノスが、苦しんでいる。
今シーズンはスティーブ・ホーランド監督とともにスタートしたが、開幕から勝ち切れない試合が続き、4月中旬に解任された。ヘッドコーチだったパトリック・キスノーボが後任に指名されても、チーム状況は上向かない。6月中旬にはシーズン2度目の監督交代へ踏み切り、開幕時にアシスタントコーチだった大島秀夫が監督となった。
ホーランドは前イングランド代表ヘッドコーチで、キスノーボは母国オーストラリアを中心に指導歴を積んできた。どちらも、指導者としては優秀なのだろう。ただ、Jリーグとの接点はほとんどない。Jリーグを、日本人選手を、日本サッカーを、どこまで理解していたのかには疑問が残る。
振り返れば24年も、シーズン途中に監督交代を余儀なくされた。元オーストラリア代表のハリー・キューウェルとともにスタートし、アジアナンバー1クラブを決めるチャンピオンズリーグで初の決勝進出を果たしたものの、リーグ戦では苦戦が続いた。クラブは7月にキューウェルとの契約を解除し、ヘッドコーチだったジョン・ハッチンソンを内部昇格させた。
キューウェルと同じオーストラリア出身のハッチンソンは、自身の采配後はリーグ戦で勝ち越した。しかし、22年に5度目のリーグ優勝を果たし、23年は2位で終えたチームにとって、リーグ戦9位の成績は周囲への説得力を欠くものだったのだろう。ハッチンソンはチームを去り、ホーランドがやってきたのだった。
しかし結果は、このとおりである。監督交代が続くことで継続性を持てず、チーム作りが場当たり的、属人的になっていると言わざるを得ない。
クラブの立ち位置を考えれば、リーグ優勝を目ざすべきチームであり、当然ながら自分たちで主導権を握るサッカーをする、との共通理解はあるはずだ。実際に『アタッキング・フットボール』の標語を掲げているが、具体性を持って浮かび上がってこないである。不振が続いている以上、目の前の結果を追い求めざるを得ない事情はあるとしても……。
25年シーズンの低空飛行については、アジアチャンピオンズリーグ出場で試合数が多く、ケガ人が出たことで選手のやり繰りが難しくなったことも関係している。川崎フロンターレから獲得したアタッカー遠野大弥が、ケガで6月下旬から長期離脱を強いられている。
F・マリノスならではのそうした事情はあるとしても、保有戦力はJ1リーグでトップクラスである。そんなチームが、なぜ下位に低迷してしまうのか──チームとしての方向性が明確でなく、苦しいときに立ち返る場所を持てていない、と言うほかない。立ち返る場所を持てていれば、そもそも何連敗もしないものである。
チームは立て直しに懸命だが、シーズン中に主力選手を失うこととなった。7月以降にJ1で2年連続得点王のFWアンデルソン・ロペス、FWエウベル、FWヤン・マテウスの3人がチームを去ったのである。攻撃を支えてきたブラジル人トリオが解体された。
2年連続J1得点王アンデルソン・ロペスが7月にチームを去った
クラブはすぐに代役を補強する。得点源としてイスラエル代表歴を持つFWディーン・デイビッド、J2のいわきFCで昨シーズン18発のFW谷村海那を補強した。ふたりはともに移籍後初出場の試合で得点を決め、今後への期待を抱かせている。
ウイングにはJ2のジュビロ磐田からベルギー人ウイングのジョルディ・クルークス、同じくJ2のベガルタ仙台からオナイウ情滋を引き抜いた。クルークスはJ1のアビスパ福岡とセレッソ大阪でもプレーしており、今シーズンはJ2トップのアシストを記録していた。右ウイングが定位置で、左足から繰り出すクロスはピンポイントの精度を誇る。
オナイウは右利きの右ウイングで、プロ2年目の今シーズンはチーム事情で左サイドでもプレーしている。クロスやシュートの精度に改善の余地はあるものの、スピード抜群で突破力がある。
彼らふたりに先駆けて、ブラジル人のユーリ・アラウージョもスカッド入りさせた。今春までポルトガル2部のクラブでプレーしていた彼は、馬力のある突破とクロスが得意なレフティーだ。アタッカーの枚数は、ひとまず揃ったことになる。
昨シーズンからの持ち越し課題となっている失点の多さについても、解決への一手を打った。20年から23年まで在籍したセンターバックの角田涼太朗を、カーディフ・シティ(ウェールズ)から呼び戻したのである。期限付き移籍先のコルトレイク(ベルギー1部)で十分な出場機会を得ていなかったこともあり、本人は「強い覚悟を持って帰ってきた」と話す。
加入後は左センターバックのポジションで、守備を引き締めている。対人プレーに強いコロンビア人のジェイソン・キニョーネスとのコンビで守備に安定感をもたらすことができれば、チームの戦いそのものが安定する。
あとは、大島監督のもとでプレーモデルを構築できるか。『アタッキング・フットボール』にしっかりとした輪郭を持たせることで、チームに芯が通る。いい攻撃をするためのベースとして、守備も整備されていく。
そのために、主将を務める喜田拓也の役割は大きい。ユース出身で強いリーダーシップを持つ彼は、「クラブのために」との熱い思いを胸に秘める。この31歳のMFがピッチの内外で存在感を発揮していくことで、チームは進むべき道を歩んでいける。
主将の喜田拓也の存在は、チームの大きな支えだ
ヨーロッパ各国リーグには、誰もがその名を知るビッグクラブがある。5大リーグと呼ばれるイングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランスはもちろん、ポルトガルやオランダ、ベルギーや北欧のリーグにも、その国を代表するクラブは存在する。
30数年の歴史を刻んできたJリーグにおいて、F・マリノスはそうしたクラブと言える。彼らが築いてきた歴史と実績は際立っており、強者たるプライドはこのチームならではのものだ。
ホームタウンの横浜は、観光地としての人気も高い国際都市である。それもまた、国を代表するクラブの条件である。Jリーグはもちろんアジアを代表するクラブに成り得る資質を、F・マリノスは備えているのだ。
だからこそ、彼らは強者でなければならない。強者であり続けなければならないのだ。
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