長崎県の北西に位置し、日本海の入口付近に防波堤のように伸びる島「対馬」。美しい海と豊かな自然に囲まれている一方で、リアス式海岸の美しい地形が、日本海に流れ込む多くの海洋ごみを受け止めている問題も抱えています。その量は毎年30,000〜40,000m3と、25mプール約133杯分にものぼります。そのうち60〜70%ほどがペットボトルやブイや発泡スチロールなどのプラスチックで、今この瞬間も次々と浜に打ち寄せ、生態系や漁業などに大きな影響を及ぼしているのが現状です。
対馬ではこれら海洋ごみを回収し、資源化する活動が行われていますが、私たちアルペングループとしても何かできることはないだろうかと始まったのが、今回の対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップのプロダクトプランニングです。
商品化するにあたり、どんな経緯で対馬の取り組みを知り、海洋ごみから生まれたプラスチックをどのように活用して商品開発したのか、またアルペンのサステイナブルな視点からもお話を聞くために、プロジェクトに携わったみなさんに取材してきました。
誕生秘話を聞けば聞くほど、対馬の海洋ごみ問題のこと、今回新たに発売される自然環境保全商品のことについて興味を持っていただけるはず。ではさっそく、インタビューしていきましょう。
■対馬海洋プラスチックを由来とした商品の取り組みについて

まずは、対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップの開発にさきがけ、取り組みに至ったきっかけや経緯について、アウトドア商品部の松井さんに語っていただきました。
――今回の取り組みは、どんなところからスタートしましたか?
松井さん:
アルペンアウトドアーズの立ち上げ当初からお付き合いのあるpatagoniaというアウトドアブランドがありまして、1年半くらい前、patagonia展示会へ訪れた際に対馬の海洋ごみについて知ったのがきっかけです。patagoniaさんは以前から自然環境保全の取り組みを積極的にされており、そこで担当者の方から対馬の海洋ごみ問題と取り組みについて聞かせていただきました。
対馬のプラスチック海洋ごみを原料にしたフライングディスクが販売されているのを見て、当時一緒に展示会に参加していた弊社役員と「アルペンでも何かできることがあるのではないか?」「よし、それじゃあやってみよう!」とトントン拍子で話が進んでいったのを今でも覚えています。
こういうとき、自社でプライベートブランドを持っていると行動に移しやすいですし、「あぁ、これこそアルペン “らしい” 風土だな」とも思いました。
――社内の部署の垣根を超えて、プロジェクトがスタートしたというわけですね。
松井さん:
はい。商品化に向け、弊社のプライベートブランド開発を行っているスポーツゴルフギア事業部に声をかけるところからプロジェクトが始まりました。プライベートブランドとしてさまざまな商品を長年開発してきたノウハウと実績があるチームなので、きっとやり遂げてくれるに違いない、と。
1年前からスタートし、この半年くらいでぐっとスピードが上がり今回の発売を迎えることができて、本当に良かったなと感じています。

――実際に対馬を訪れたそうですが、海岸を視察されてどんなことを感じましたか?
松井さん:
以前、取引先様と石垣島の海洋ごみの一部であるペットボトルを1万本回収しようという取り組みがありまして、最初は「1万本も回収できるのか?」と思いながら回収を始めたんですね。ところが短時間で完了してしまうくらい物凄い数のペットボトルが海岸に流れ着いていて、かなり驚きました。
そんな経験がありましたから、視察が決まったときも「対馬も同じくらいの量があるのかな」というイメージでした。そして対馬の海岸に立つと……目に飛び込んできたのは、石垣島の比ではないくらいの海洋ごみでした。「衝撃の光景」とはこれなのか、と。対馬という地形と場所が、大陸の防波堤のようになってしまっているがゆえに、とくに西側の海岸は海洋ごみの流れ着く量がまったくもって違うのです。酷いところでは海岸の土の中に埋もれて掘り起こせない状態になっていて、「問題は本当に深刻なんだ」と感じずにはいられませんでした。

――対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップを発売するにあたり、約800kg分の海洋ごみを消費することができたとお聞きしました。
松井さん:
今回商品化したヒップソリとスコップは、6,000点の販売を見込んでおります。これは約800kg分の海洋ごみを消費できる計算です。対馬の海洋ごみ由来のリサイクルプラスチック原料の配合率は、ヒップソリで50%、スコップは100%となっており、対馬市役所の方から非常に高い評価もいただいております。
しかしながら、現実は数ヶ月で1トン袋の海洋ごみが何十袋単位で回収され続けていて、まったく追いついていません。今後アルペンとしてもさらに商品を開発していかなければという思いがありますし、また我々だけで達成できるものではないので、同業種、他業種含めて対馬の海洋ごみの原料を優先して消費できる製品づくりを考えていかなくてはと強く感じています。
■対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップができるまで

続いて、対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップができるまでの開発秘話を、スポーツゴルフギア事業部の上野さん(写真右)と伏見さん(写真左)からお聞きしました。
――対馬海洋プラスチックを使用した商品を開発するにあたり、工場探しから始まったそうですね。
伏見さん:
リサイクル海洋プラスチックという、通常使う材料とは特性の異なるものになりますので、あまり強度が必要なアイテムには使えないな、という懸念がありました。そのなかで、アルペンとして開発できるものは何かと考えたときに、「雪山の遊び道具はどうだろう?」と候補が上がったのが始まりです。
せっかく自然環境保全商品の開発に携わるなら、工場も国内で探したい。しかし、素材が特殊であるために、機械との相性やダメージリスクもありハードルが高い。開発に協力していただけるメーカーさんを何社か尋ねるなかで、「一度うちで挑戦してみましょうか?」と前向きに検討してくださるパートナーが見つかったときは、本当に感謝でしかなかったです。昔からお付き合いのある、信頼のおけるメーカーさんということもあり、「ヒップソリとスコップであれば、リサイクル素材を高い割合で配合して作れるかもしれない」と提案もしてくださいました。

――海洋ごみ由来の商品は、10〜20%くらいの配合率が多いなか、今回開発されたヒップソリとスコップは配合率がとても高いということも伺っています。
伏見さん:
リサイクル素材を使う場合、100%に近づけば近づくほど上手く作れない確率が上がり、機械を傷めてしまうリスクも高くなります。しかしながらメーカーさんの技術と工夫のおかげで、スコップに関しては原料100%で作ることができました。ソリも100%で完成させることはできましたが、安全性を確保することと安定した品質を保持することを最優先にするため、50%の配合で量産することに決定しました。

――各カラーのネーミングも素敵です。
上野さん:
対馬について調べていくと、「対馬ブルー」という、対馬の美しい海や自然が生み出す色の呼称が広く知られていることもあり、「対馬ブルー」をメインに海の美しさを表現できるカラー展開を考えていきました。そのなかで生まれたのが、「珊瑚ピンク」と「夕波オレンジ」です。
これらのカラーを見ていただくと気付かれる方がいらっしゃるかもしれませんが、リサイクル原料を使って製造すると着色前の素材が真っ白ではないため、少し色がくすむんです。その色合いから「海洋ごみの問題で今は綺麗な色ではないけれど、本当はもっともっと美しい対馬の海を取り戻したい」という想いも込めて、名付けさせていただきました。

――今後も、対馬海洋プラスチック由来の商品開発を広げていく予定はありますか?
上野さん:
弊社は「Alpen GREEN PROJECT」という自然環境を守る取り組みを推進しており、そのなかで資源循環につながる活動も行っていますので、今後も関係部署と連携して新商品開発に取り組んでいく予定です。
伏見さん:
現在は今冬シーズン中発売の予定で、雪合戦や雪だるまづくりで使う「スノーボールメーカー」も絶賛開発中です!現在最終調整を行なっておりますので、どうぞみなさん楽しみにお待ちください。
上野さん:
余談ではありますが、リサイクル原料というシビアな材料を使って新たに商品を開発するというチャレンジを、我々の部署に移動したばかりの伏見が中心となって開発した商品です。頑張りを褒めてあげたいと思っています。
伏見さん:
ありがとうございます。
■対馬の実情を、もっと多くの人に知ってもらうために

最後に、対馬の実情について、みずから現地に赴き視察したサステイナビリティ推進室の柴田さんからお話をお聞きしました。
――対馬に毎年30,000〜40,000m3漂着する海洋ごみを目の当たりにした印象はいかがでしたか?
柴田さん:
一緒に対馬に訪れた松井も話しているとおり、本当に衝撃的でした。それ以外に言葉が見つからないくらい、スケールが桁違いで圧倒されましたね。弊社でも、年に1回、本社から1時間ほどの場所にある愛知県常滑市の海岸清掃を取引先様と一緒に行っておりまして、そのときは海岸に落ちているごみは数名のメンバーで清掃すればほぼ完遂できたのですが、対馬はそんなレベルで解決できる問題ではありませんでした。

――対馬の海水浴場や、ごみが流れ着いた海岸など、何ヶ所か訪れたそうですが。
柴田さん:
対馬市役所の職員の方に案内していただき、浜を視察してきました。清掃が行き届いている小茂田浜、大きな海洋ごみが流れ着くクジカ浜、そして海流の関係でより細かくなったプラスチックごみが多い赤島海岸の3ヶ所です。

柴田さん:
とくに赤島海岸では、細かいごみが10〜20cmの地層のように積み重なっていました。これらを放置するとさらに海に流れ出てしまい、紫外線や海水、波でだんだん砕けてマイクロプラスチックとなり回収が困難になってしまいます。
そしていずれマイクロプラスチックは魚に取り込まれ、またそれを人類が食べる……という流れになる。だからここで自分たちが食い止めなければならないと、職員の方がおっしゃっていました。
ちなみに、WWF(世界自然保護基金)が発表した調査によると、「人間は毎週クレジットカード1枚分(約5g)のマイクロプラスチックを摂取している可能性がある※1」そうで、私たち人類がしっかりと向き合っていかなくてはならない問題をここ対馬であらためて認識できた、貴重な経験だったと思っています。
※1『No Plastic in Nature: Assessing Plastic Ingestion from Nature to People』
(WWF(世界自然保護基金)by Dalberg:2019)

――今回の取り組みで手応えだけでなく、課題も見えてきたかと思います。
柴田さん:
patagoniaさんからご紹介いただいて始まったのが今回の取り組みで、「実際に製品化ができている企業というのはとても少なく、国内では数社しかいない」という話をお聞きしました。商品として販売し、循環のサイクルを作れたということに関しては、アルペンとして手応えを感じています。
しかし一方で、「全然追いついていない」という課題があります。
対馬で回収された海洋ごみが商社にわたり、再生樹脂になった原料を私たちが購入し製品化していく流れですが、それでもまだ数十トンほど捌ききれていない状態だそうです。今回約800kg分の原料からヒップソリとスコップを作ることができましたが、それだけではまだまだ足りません。
自社で開発する製品を増やしたり、1回でもっとたくさん対馬の再生プラスチックを消費できる何かを考えたりしていかなければならないと感じていますが、その前にまず、対馬の現状をもっと多くの人に知ってもらう、継続的に広めていく活動を始めなければならないことも痛感しています。
そこで今回の新商品発売に合わせ、各店舗での売場でも対馬の現状をお伝えする演出物の展開をはじめ、patagoniaさんと共同で啓蒙活動をすることも検討していますので、もし店舗に遊びに来た際に見つけたら、足を止めていただけると嬉しいですね。

柴田さん:
最後に、対馬の海洋ごみ問題は、浜に流れてくるごみのうち60%以上※2が海外から漂着しています。
数字だけを見ると海外から流れ着いている割合が多いですが、日本から出た海洋ごみは、海流に乗って太平洋を渡り、ハワイ周辺にたどり着くこともあると言われています。つまり、決して海外だけのせいではない。ひとごととして捉えるのではなく、自分ごととしてもしっかりと認識していかなければならない問題なんですね。
対馬に限らず、地球全体の問題として一人ひとりの意識を高めていくためにも、これからも積極的に活動を続けていかなければならないと思っています。
※2 『海岸漂着ごみの現場と対策』
(対馬市 市民生活部 環境政策課:2024)
■商品情報

ヒップソリ
〈価格〉899円(税込)
〈カラー〉対馬ブルー、珊瑚ピンク、夕波オレンジ
スコップ
〈価格〉499円(税込)
〈カラー〉対馬ブルー、珊瑚ピンク、夕波オレンジ
……以上、対馬海洋プラスチック由来のヒップソリ/スコップの誕生秘話や取り組みについての紹介でした。対馬の実情を知り、商品を購入することで、美しい海を未来につなげていく一歩になります。店舗で見かけた際は、ぜひコーナーに立ち寄って商品をチェックしてみてくださいね!
【文章】平田 仁美
【写真】カメイ ヒロカタ
【写真提供】アルペングループ