第102回箱根駅伝は、青山学院大が総合10時間37分34秒の大会新で優勝。2位・國學院大(10時間40分07秒)に2分33秒差をつけ、記録上は明確な圧勝だった。
ただ一方で、上位争いの密度は異常だった。4位・早稲田(10時間44分29秒)と5位・中央(10時間44分31秒)は2秒差。6位・駒澤(10時間44分50秒)まで含めると、4〜6位が21秒の中に収まっている。勝者ははっきりしているが、強豪同士の拮抗度合という観点では、過去最高決戦と呼ぶにふさわしい年だった。
今季は、選手層や、箱根の前哨戦とされる出雲駅伝・全日本大学駅伝の結果などを踏まえ、青学・國學院・駒澤・中央・早稲田が「5強」として語られてきた。もっとも、この5校を強いで一括りにはしにくい。年間の過ごし方、そして箱根に向けたスタイルがそれぞれ異なるからだ。
陸上競技界隈では、とりわけ「青学=箱根重視」「中央=トラック重視」「駒澤・早稲田=個別に手厚い」といった整理がされがちだが、実際にはもっと入り混ざっている。その輪郭が比較的見えやすいのが、一年を通したレース出走の並び方である。どの時期に、誰が、どの舞台で何を確認しているのか ――そこに各校の仕上げ方がにじむ。
■1. 春:中央はトラックで記録を狙いに行く色が濃い

春は、トラックで記録が狙いやすい季節だ。5000mや10000mの記録を積み上げていくと、外から見ても現状の速さが把握しやすい。加えて、この時期にスピードを強化し、トップラインを引き上げておくことは、駅伝における巡航スピードやペース耐性の向上につながるという考えもできる。
中央大学は、この時期にそうした舞台へ積極的に選手を送り込む印象がある。5月のゴールデンゲームズ in のべおかでは、5名が5000mの日本選手権標準記録(13分36秒00)を突破し、大学陸上界における「スピードの中央」を強く印象付けた。5000mを中心としたトラック種目と、駅伝(とりわけ20km程度の箱根駅伝)との間に距離の隔たりがある中で、中央のトラックで記録を狙いに行く姿勢は、少なくとも見え方としてははっきりしていた。
一方の青学は、この季節に主力が一斉にトラックでの記録を狙いに行く姿が相対的に目立ちにくい。関東インカレ、全日本インカレには主力を送り込み好結果を残しているものの、中央ほどトラックレースそのものへ強く寄せにいく雰囲気は薄い。箱根から遠い時期でも、どこか「箱根で効く土台」を手放していないように見える。
■2. 夏合宿〜出雲:短い駅伝に「合わせない」選択

三大駅伝の初戦として10月に開催される出雲駅伝は、総距離45.1km、各区間も5.8~10.2kmと短く設定されている。三大駅伝の中でも、最もスピード色の強い大会だ。
その出雲で、國學院が優勝、早稲田が2位、駒澤が5位、青学が7位、中央が10位という並びになった。ここをどう解釈するかは一つではない。「短い距離へのピーキングが間に合わなかった」と見ることもできるし、「短いところに合わせ切らない」という意思決定だった可能性もある。
この点で中央大学は、藤原正和監督が夏の方針として「出雲は捨ててもいいから距離を積む」趣旨を語り、「従来より距離としては1ヶ月に100~150km増やしたが、スピード練習は一切していない」と説明している。出雲の順位だけを見ると苦しいが、裏返せば、短い駅伝で映えることよりも、箱根で効くものを優先した、とも読める。
青学も出雲は7位だったが、塩出翔太・黒田朝日らが区間賞を取れている。つまり、個の速さが消えているわけではない。チームとしての合わせ方が、秋序盤ではまだ箱根仕様の途中段階だった――そう捉える方がしっくりくる。
■3. 秋後半:青学と中央は、似た設計で動き始める
興味深いのは、秋の後半に差し掛かってからの動きだ。
11月22日に行われたMARCH対抗戦(10000m)では、黒田(青学)が27分37秒62でトップに立ち、計5名が、一流選手の証とも言われる27分台で走破した。
また、同日開催の八王子ロングディスタンスでは、岡田開成(中央)が27分37秒06を記録。MARCH対抗戦と合わせて中央勢も5名が27分台に到達し、さらに「10000m上位10人が27分台」という実業団顔負けの水準に達した。
この時期にこれだけの人数が27分台を揃えてきた事実は、個のピークではなく、チームとしてのスピード水準が一段引き上げられていることを示唆している。
この時期に、エース級を含めて同じようなタイミングで10000mを走り、チーム全体でPBが並ぶ。これは外から見ても、箱根前の強化・確認作業が、ある程度そろった流れで回っていることを示している。「箱根の青学/トラックの中央」と対比されるが、少なくとも秋後半に関しては、両校とも、箱根へ向けて整えるための10000mを活用する点で共通している。
■4. 國學院・早稲田・駒澤:出雲で一度スピードを作り、距離へ寄せていく

一方で、國學院大學・早稲田大学・駒澤大学は、青学や中央とはやや異なる設計で箱根に臨んでいるように見える。短い距離色が強い出雲駅伝では、國學院が1位、早稲田が2位、駒澤が5位と、駅伝シーズン序盤において良好な立ち上がりを示した。
ここで断定は避けたいが、出雲でいったん5〜10kmを速く走り切れる状態を作り、そこから箱根本番に向けて適正距離を伸ばしていく――そうした設計を想定すると、各大会での並びは理解しやすくなる。
その中間の節目として機能しやすいのが、11月初旬の全日本大学駅伝だ。全日本は8区間106.8kmで、最長区間は17.6kmや19.7km。総距離45.1kmの出雲と、217.1kmの箱根のちょうど中間に位置する。
「出雲で短い距離のピークを作り、全日本を距離側へ寄せていく過程のチェックポイントとして通過し、そこから箱根仕様へ」という見方をすれば、結果の並びは比較的きれいに説明できる。出雲ほど短くなく、箱根ほど長くもない――だからこそ、速さを保ったまま距離適性を高めていく過程のマイルストーンになりやすい。
その全日本では、駒澤が優勝(5時間06分53秒)、國學院が4位(5時間09分45秒)、早稲田が5位(5時間10分21秒)。一方、出雲で不振だった中央が2位(5時間08分54秒)、青学が3位(5時間09分28秒)に入り、異なるアプローチを取った5強が交差する構図となった。
また、この3校に共通するのは、駅伝に起用される主力メンバーが10000mで記録を狙うのではなく、11月16日の上尾ハーフマラソンを選択している点だ。適正距離が順調に伸びているかを確認するためのマイルストーンとして活用していると考えられる。
なお、國學院は主力の一部を同時期の日本体育大学記録会10000mにも出走させており、より個別性を持たせた強化・調整を行っていることが示唆される。
■5. 早稲田の特徴:主力は三大駅伝に注力する

早稲田は、夏以降は山口智規・工藤慎作・鈴木琉胤といったエース級が、三大駅伝以外のレースに姿を見せなかった。(準エース級以下は、11月16日の上尾ハーフマラソンに多数出走している)。エース級も同じ流れで10000mに出場している青学・中央とは明確に異なるスタンスだ。彼らは、前述したマイルストーンを踏みながら箱根駅伝に向けて一直線に仕上げているように映る。駅伝シーズンに入ってからは、記録会をマイルストーンとして活用せず、大一番である駅伝の舞台で仕上がりを提示する色が濃い。
また、鈴木自身は、早稲田大学競争部のブログで「八千代松陰高校時代、記録会にほとんど出て来ませんでした。記録は主要大会で出せばよい」という趣旨を記しており、このチームの空気と相性が良いのだろう。
そして、その運用が今年の箱根で当たった。
2区・山口は65分47秒の区間4位で日本人トップ。4区では1年の鈴木が60分01秒で区間賞(区間記録まで1秒)。エース級の露出を絞り、ピークを小刻みに作らない分、駅伝に向けた練習の質を落としにくい――そうした運用のメリットが、本番の走りとして表れたと見ることもできる。花田勝彦監督が重視する「オーダーメイド的な強化・調整」が機能した例と言えるだろう。
■6. 青学がなぜ強いのか:箱根を起点とした年間設計と、高いレジリエンス

それでも結局、箱根の優勝は青学が持っていった。優勝の象徴は、黒田の5区67分16秒(区間新)である。
ただ、青学の強さを黒田一人の存在に回収してしまうと、本質を取りこぼしやすい。もう一つの柱として挙げるべきなのが、チームとしてのレジリエンスの高さだ。
今回の青学は、当日変更を伴いながらも勝負の構造が壊れなかった。想定外の起用が生じても、他校のエース級に匹敵する水準まで戦力化できる状態が整っている。
もともと1区に起用予定だった荒巻朋熙は、12月31日に胃腸炎を発症し、38.8度の発熱により出走を断念。これを受けて、4区予定だった小河原陽琉が1区へスライドし、4区には補員想定だった平松享祐が起用された。急遽4区を任された平松は60分45秒で区間3位。エース級を投入した早稲田の鈴木(60分01秒)、中央の岡田(60分37秒)と比べても大きな差はつかず、結果として5区・黒田での大逆転劇につながっていった。
この「崩れなさ」は偶然ではない。2年前にも、青学は11月下旬から12月初旬にかけてインフルエンザの集団感染が報じられながら、最終的には優勝まで持っていった。
個の強さに依存するのではなく、想定外を織り込んだうえで戦力を再配置できる――その構造そのものが、青学の強さを規定している。
走者数の多い駅伝ほど、誰かが欠けた際の耐性が厳しく問われる。とりわけ箱根駅伝の時期は、感染症が流行しやすく、寒暖差の大きさからコンディション不良や足のトラブルも起こりやすい。したがって、この大会においては、レジリエンスの高さが前提条件となる。
青学の強さは、この前提を織り込んだ設計にある。同じ流れ・同じ思想のもとで準備してきた選手の母数が厚いため、ベースとなる走力が揃っている。結果として、最終局面でその時点でもっとも整っている選手を見極めやすい。起用判断が的中すれば、突発的なアクシデントが生じても、チーム全体の出力は大きく落ちない。
箱根という舞台で青学が強さを発揮しやすい理由は、年間を通じてトラックに寄せ切らない育成スタンスと、この高いレジリエンスが、「10人・計217.1km」という競技特性、そして大会時期特有の不確実性と噛み合っている点にあると考えている。
■結び:群雄割拠時代は「速さ」より「仕上げ方」の差が面白い
中央は、夏前にトラックで記録を狙い、夏は距離へと振り切り、秋後半は10000mで戦力を揃えたうえで箱根に入った。
國學院、早稲田、駒澤は、出雲で一度スピードを作り、全日本を節目としながら距離適性を伸ばしていく設計を選んだ。
そして、青山学院大学は、常に箱根駅伝を見据えた育成スタンスと高いレジリエンスによって、「箱根という競技」に最も噛み合う形を作り切った。
面白いのは、ここからだ。
群雄割拠の時代に入り、大学ごとの「色」は、これまで以上に鮮明になってきている。
「悔しい4位」にとどまった早稲田大学には、全国高校駅伝1区で1〜3位を走った増子陽太・新妻遼己・本田桜二郎が入学してくる。彼らに対しても「箱根のために来たわけではない」という花田監督らしい長期目線の育成スタンスは揺らいでいない。
今回、5強に対して3位と割って入った順天堂大学は、エース・吉岡大翔が最終学年を迎える。チームとしての完成度は、さらに一段階引き上げられる可能性がある。
また7位に入った城西大学は、世界と戦うことを見据え、科学的アプローチと低酸素環境を積極的に活用するなど、5強とは異なるアングルで強い選手を育成している。
現在、箱根において王者であるのは青学だ。だが、王者の型が強く確立されるほど、それと対比される別の型もまた洗練されていく。
これからの箱根は、単なる速さ比べではない。各大学がそれぞれの色を打ち出しながら競い合う、群雄割拠の時代へと入っていく。
その中で、どう仕上げるかという思想の違いそのものが、ますます面白くなってきている。
<著者プロフィール>
近藤 秀一
MABPマーヴェリック コーチ
東京大学陸上運動部 長距離コーチ
東京大学在学中、4年時に関東学生連合チームの1区として箱根駅伝に出走(2019)
卒業後はGMOインターネットグループに所属し、ニューイヤー駅伝6区に出走(2021)
東京大学大学院では、「給水おじさん」として知られる八田秀雄教授のもと、運動生理学を専攻。
競技経験と研究知見の両面から、長距離ランナーの育成・指導に携わっている。
<個人>
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【文章】近藤秀一
【写真】アルペングループ提供